奪うのではなく、つなぐために“わな”を仕掛ける。
願うのは、豊かな山の未来。

『たまきはる』代表/佐賀県猟友会神埼支部

塘 さなえさん

町が静かに消えていくのを、ただ見ていられなかった。

佐賀市出身の塘さなえさんは、わな猟師として猟友会神埼支部に所属し、有害鳥獣の駆除と真剣に向き合う日々を送っています。畑が2度荒らされると、農家の心は折れる。祖父母が暮らした佐賀市富士町の風景が、農業離れとともに静かに衰退していく姿を見て、「誰かが何とかしてくれる」と思っていた自分に終止符を打ちました。町を守るには、自らが動くしかない。そう決意して狩猟の道へ。獣害が“農業をやめた人の分の被害”までは語ってくれないことに気づいた彼女は、「命と町と、両方と向き合いたい」と思うようになり、わな猟免許を取得。その行動が、今、町の未来を支える力になろうとしています。

命の物語を、地域の未来につなげていく覚悟。

塘さんは真摯に命と向き合う覚悟を胸に山に入ります。獲った命には塩や米、日本酒を供え、必ず祈りを捧げる。母として、山に生きる者として、誠実でありたいという想いの表れです。展開するジビエブランド「たまきはる」は、和歌の枕詞に由来し、「誰かと結びついて意味をなす」という意味を込めて命名。それぞれの性別や肉質、味の傾向など丁寧に記し、栄養士や主婦の視点も活かしながら、命の物語として届けています。最先端設備が整う神埼支部に所属しているのも、命を最期まで大切に想うからこそ。人と動物の共存を願いながら、今日も祈るような気持ちで、わなを仕掛けています。

PROFILE

塘 さなえ(つつみ さなえ)

病院の栄養士として勤務後、アクセサリーデザイナーとしての活動を経て、2023年にわな猟免許を取得。佐賀県猟友会神埼支部に所属し、有害鳥獣駆除に従事するかたわら、ジビエブランド『たまきはる』を立ち上げ、山の再興を願い、命の価値を伝える取り組みを続けている。母親の視点とマタギの精神を重ねた『マママタギ』として、イベントやトークライブなどの情報発信にも力を入れている。

地域を活かし佐賀をつくる SAGA LOCALIST
LOCALIST(ローカリスト)は、佐賀県内で精力的に地域づくり活動に取り組んでいる方で、若い世代の方々にお願いしています。