幻の果実「ポポー」を地域の特産品に。親子で挑む商品開発は「もったいない」から始まる。No.032 夢見るぽぽりん ?村真理さん・美波さん
- 2021.07.27
- written by 山本 卓
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明治時代、外国から輸入された果実ポポー。当時、多くの家庭で庭木として植えられて親しまれていた。戦後間もない頃は、大切な食糧だったが、時代遅れの果実として、やがて姿を消した。そして現在、市場で出回ることの少ないポポーは、幻の果実と呼ばれるようになった。
「あの懐かしい味を再び楽しみたい。そして富士町の特産品に育て上げたい」と日々奮闘されている、夢見るぽぽりん副会長 ?村真理さん(60)と商品開発・綿菓子担当の娘・美波さん(30)。年間通じてポポーを楽しんでもらえるよう、さまざまな商品に加工し販売しながら、イベントに出向きポポーを広める活動もしている。今回はそのお二人に、商品開発秘話や、これからの展望についてお話を伺った。
幻の果実ポポーとは、どんなもの?

本日は、よろしくお願いします。真理さん、幻の果実ポポーとは一体何なんですか?
真理:北アメリカ原産の木の実で、暑さや寒さに強く、実の見た目は緑色のジャガイモみたいな感じなんですけど、中身は黄色。味はマンゴーとバナナを足して2で割ったようなトロピカルなフルーツです。食感はカスタードクリームのような柔らかさがあります。
ポポーを育てるのは難しいですか?
真理:全然そんなことありません。私は、なるべく自然のままで育てたいので、肥料は使わず、刈った草を木の根元に集めるぐらいで、ほとんど何もしていません。
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ポポーは、なぜ幻の果実と呼ばれるようになったのですか?
真理:戦後の食糧難の時代。とても重宝されていたそうですが、徐々に時代遅れの果実だと言われたらしいです。味も、とてもトロピカルなので、昔の日本人には合わなかったのかもしれませんね。それで育てる人が減ってしまい、さらに日持ちがしない果実なので流通させるのが難しいことも幻と呼ばれる理由だと思います。
日持ちしないとは、どのくらいなのですか?
真理:収穫して5日ぐらいで食べられなくなってしまいます。収穫時は緑色だった果実も、最終的には真っ黒になってしまうので、売りに出すにはあまりにも汚くて。
……でも本当はそのぐらいが一番甘くておいしいですけどね。
ポポーと再会「一度食べてもらいたい。」

真理さんが、ポポーを育てることになった、きっかけはなんだったのですか??
真理:私が小学生の頃、父が庭にポポーの木を植えたことが、私とポポーとの出会いです。初めて食べたときは「南国の味だ」と驚きました。入院した時にしか食べられなかったパイナップルやバナナに匹敵する華やかさを感じました。しかし18歳の頃、実家を建て直す際にポポーともお別れしました。
それから月日が流れ、今から20年ほど前にTV番組でポポーの話が出たんです。私は懐かしさを感じ、主人に「ポポーっておいしいんだよ」って話しました。しかし、気持ちが伝わらず。だったら主人に食べさせてあげたいと思ったんです。
それからポポーの苗木を探したんですけど、見つからず。たまたま京都にあることを知り、急いで2本の苗木を取り寄せました。苗木を見てビックリしました。だって30㎝ほどの「死にかけのゴボウ」みたいなヒョロヒョロの木だったんです。(笑) その辺に捨ててあっても見向きもされないぐらい頼りない苗木を2本、庭の片隅と畑に植えました。それから4年間、植えたことを忘れていたんですが、90㎝ほどに成長していた苗の根元には4個ほどポポーの実が落ちていたんです。それを収穫して主人に食べてもらって。
ご主人の感想はいかがでした?
「うまーい」って言ってくれました! その年は4個だった実が、次の年になると、いきなり100個出来ちゃって。こんなになるとは思わなかったので、困りましたねぇ。「どうしよう、これ毎年大変なことになるんじゃないか」って。(笑) 放置されてしまうポポーを見ていると「もったいない!」と思ったんです。それから売るというより、みんなに食べてもらいたい、プレゼントしたいなと思うようになって今に至ります。
ポポーを富士町の特産品にしたい。

実際にポポーを育てるには、どのような作業をされるんですか?
真理:普段は草を刈り、木の根元にその草を集めてあげます。そして収穫時期の8月末頃になるとポポーは自ら落下します。それが食べ頃なんです。その実を拾い集めて、8月末から10月上旬辺りまで、道の駅2カ所(ダムの駅 富士しゃくなげの里、道の駅 大和そよかぜ館)へ配達をします。600袋(2~3個入り)ほど出荷させていただいて、ありがたいことに毎年完売します。同時並行で加工品用に、実をペースト状に加工したうえで冷凍保存し、それをさらに工場に送ってフリーズドライにします。
すごいですね。果実だけで600袋が完売して、その他、加工用にも収穫しなくてはいけないとなると、相当な量が必要になりますよね。
真理:そうですね。今は本当にありがたいことに「夢見るぽぽりん」というチームがあって、皆さんが作られているものを買取らせていただいたりして販売、加工させてもらっています。
夢見るぽぽりんとは、どんなメンバーの集まりなんですか?
真理:私が「ポポー育ててね」って苗を勝手に配った方々で20人ぐらいのメンバーです!(笑) それぞれに育ててもらって、分からないことがあれば聞いてください、という放任主義のスタンスを取っています。メンバー自身で出荷販売できるようしたいんです。でも実際に出荷されているメンバーは5軒ほど。ぽぽりんちゃんシールを出荷の袋に貼ってもらい、メンバーで一体感を出して頑張っています。とにかくみんなで楽しみながらポポーを広めていき、ポポーを富士町の特産品にしたいです。
商品開発秘話①「すべてが初めての事ばかり」

現在、ぽぽりんあいすやキャンディー、ジュレ、綿菓子といった商品を世に出しているお二人ですが、こうした商品開発には相当苦労されてきたそうです。
可愛らしいキャラクター「ぽぽりんちゃん」は誰がデザインされたのですか?
真理:私です! とにかくポポーを可愛くしたい。子供にウケたいという想いで作りました。ポポーをそのまま売っていても、可愛くないので「なんとか可愛く!」と考えました。
カスタードクリームのように柔らかい食感のポポーを、加工して商品にするのは大変だったんではないですか?
真理:大変でしたね。一番初めに商品にしたのは「ぽぽりんあいす」です。バナナやマンゴーに味が近かったので、それに類似する商品を調べていました。その時に行き着いた仮説が、ポポーは乳製品と相性がいいのでは、というものでした。そして長持ちする加工品としてアイスを思いつきました。

すぐにミルン牧場さんにご連絡をして、試行錯誤を繰り返し、10年前に第一号が完成しました。それからもミルン牧場さんの口当たりの良い滑らかなアイスに合うように試行錯誤を繰り返して、2年前にポポーのドライフルーツを混ぜ込む製法にたどり着き、ようやく現在の形になりました。
ポポーのキャンディーを作られているのは、?村さん以外にいないとお伺いしましたが、開発秘話などありますか?

真理:キャンディー開発の時、香りを出したいと考えていたので、大変でした。通常だとキャンディには、果汁を3%ぐらいしか入れることができません。キャンディ工場の方には「これ以上は入れられないから、残りは香料で補います」って言われたんです。でもポポーの香料なんて存在していないので、不可能なんですよ。「香料を頑張って作ってみましょうか?」と工場の方に言われたんですけど……。
私は「それは偽物になるから嫌だ」と断りました。
それからどうしようかと散々考えまして、たどり着いたのが、フリーズドライ製法。しかし少量でも受け付けてくれる加工工場が見つからなくて。「あきらめたくない!」と探し続けて、ようやく工場が見つかりました。こうして風味を損なわないポポーキャンディーの開発に成功したんです。
不可能を可能にしたんですね! 最近開発した商品でいうと、綿菓子でしょうか?
真理:初めは商品化するつもりはなかったんです。夏場にキャンディーが溶けちゃって、勿体ないけど、捨てようとしていたんです。そしたらこの子が。

美波:キャンディーで、綿菓子できるじゃんって。キャンディーで作る家庭用綿菓子機があって気になっていたんですよ。家でやると面白そうってね。(笑)
真理:でも部屋の中でやるとベタベタになっちゃうから、外でやらないといけないねって話になり、中古でもいいから業務用の綿菓子機が使えないかなと話が盛り上がっちゃいまして。(笑) お金もなかったから大変でしたけど、なんとか購入することができて、イベント出店の第一号が、2020年10月末に行われた、佐賀のお山の100のしごとの「山の写真展」だったんです。
え! そうだったんですか? その節は、ありがとうございました!

写真展では子供たちが美味しそうに食べている姿が本当に印象的でした! 初めて出店してみて反応はいかがでした?
美波:子どもたちがたくさんお店に来て美味しそうに食べてくれて、今までだと少し高級感というか、大人向けの商品という印象があったポポーを、身近な存在に感じてくれたと思います。すごく嬉しかったです。
商品開発秘話②「勿体ないから、すべてを活かす方法を模索したい」

ポポーの魅力は、どんなところだと思いますか?
美波:アメリカではメジャーな食べ物だけど、日本ではまだまだ認知度が低い果実です。未知なものだからこそ、開発する面白さがある。日本独特な加工や料理の仕方、新商品開発の幅がいっぱいある。そこが魅力だと思います。例えば、葉っぱを使った防虫剤とか作れるらしいんです。でもまだ調べている途中なので、何の防虫かわかりません。(笑)
真理:アメリカの大学から仕入れた情報ですけど、いろいろ使えるそうなんですよ。(笑)
商品開発をするにあたって、着眼点はどこから始まるんですか?
真理:全部思い付きと、勿体ないから始まってきた感じですね。最初も100個できてしまって、日持ちはしないし、傷があると捨てなくちゃいけなくて勿体ない! と思ったから、今こうしてポポーの販売をしています。
もともと、いろんなことに対して「勿体ない精神」はあったんですか?
真理:富士町に移住してきた頃から余計に思うようになりました。農家さんが一生懸命作っっても、規格外の商品だから野菜を出荷できず、捨てなきゃいけない現状ばかりじゃないですか。だったら捨てるよりも、全部を活かしてやりたい。それが全ての始まりですね。
美波:自分たちでも貧乏性なのかなって思うことがありますね。(笑)
真理:貧乏だからしょうがないね。(笑) 最近ね、たんぽぽ蜜とか、野バラ酒とか、野草を使って何かできないかなと思って、これも作ったんですよ。

真理:たんぽぽ蜜はちょっとだけ苦みがあるけど、いろいろと効能もあったりするらしいですよ。
美波:たんぽぽコーヒーとかノンカフェインで妊婦さんにも飲まれていたりますし。
真理:山に行けば、たんぽぽとか野バラとかいっぱい咲くでしょ! こういう野草が多いのも山ならではです。自然が無いと絶対にできないことです。利用できるものは利用する。だからなんでも挑戦してみたい。失敗してもいいんです。
今一番面白そうだなと思う、野草は何ですか?
真理:今から私たちの中でブームが来そうなものがあるんだよねぇ。
美波:(笑)
真理:猫じゃらしってあるでしょ。あれって実が熟してから、周りの毛を炙って取り除いて、フライパンで炒るとポップコーンになるらしいよ!(笑)
猫じゃらしでポップコーン?!(笑)
真理:まだ実験してないんだけど、出来たら面白そうじゃない??(笑)
星がこんなに眩しいなんて…辛かった移住。

富士町に移住して30年。何がきっかけだったんですか?
真理:拉致です。(笑)
拉致?!
真理:主人の実家が富士町にありまして、毎年お盆と正月に主人の実家(富士町)に来て、「ここは自然で良いところですね」って言ってはいたんです。……でも、まさか住むことになるとは。
主人は田舎の大変さを知っていたので、戻るつもりは無かったんでしょうけど。お母様が一人で家に住んでいたこともあって、主人がいきなり「佐賀に帰るぞ」って。すぐに家財道具を片付け始めて、あれよあれよで1週間後、佐賀に移住してしまいました。
確かに拉致に近い。(笑)
真理:その時妊娠7か月。お腹には美波がいました。いろいろと不安もあって、1週間ほどずっと泣いていました。私の人生終わったなって。だって周りは知らない方ばかりで、相談相手もいませんし。鬱になりそうでした。空を見ては泣き、聞こえてくるのはカエルの鳴き声だけ。星空を見たら、今まで見たことの無い満天の星空が広がっていて「遠くに来ちゃったんだなぁ」ってまた泣いて。
それが吹っ切れたきっかけは?
お母様が亡くなって、集落行事に出なくてはいけなくなったことで、吹っ切れました。徐々に地域の方とコミュニケーションが取れるようになってきて。皆さんが優しく見守ってくれていることに気づきました。今では富士町が大好きです。
これから、移住を考えている方へ何かアドバイスをいただけますか?
美波:私も最近まで東京に住んでいまして、佐賀に戻ってきたんですが、やはり虫が多いし大きいので嫌いな方は慣れるまで大変かもですね。
真理:私も昔は虫嫌いだったけど、今は意外と大丈夫。今年だけで2回もムカデに刺されちゃったけどね。(笑)
人は強くなっていくもんなんですねぇ。(笑) 最後に記事を読んでくださった方へメッセージをお願いします。
真理:富士町は自然豊かで、水が美味しくて、住みやすい場所だと思います。もし移住して一緒にポポーを使った商品開発をしてみたい、食べ物を作ってみたいという方がいましたら、無償で提供いたしますので、一緒にコラボしましょう! なによりまずは、是非富士町に遊びに来てください!
お忙しい中お時間いただきありがとうございました!!
ー 編集後記 ー
幻の果実と聞いた時、ワクワクが止まりませんでした。?村さんとの出会いは2020年夏頃。
それから1年が経ち、今回取材をさせていただきました。毎回お会いする度に優しく微笑んでくださる真理さん。そして「もったいない」と、挑戦する姿勢に、感動さえ覚えました。忘れかけていた「もったいない精神」。それこそが、人を突き動かす原動力なのではないかと思います。


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<お世話になった取材先>
?村真理さん・美波さん
夢見るぽぽりん
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<お世話になった取材先>
?村真理さん・美波さん夢見るぽぽりん
1960年生まれ。熊本出身。ポポーを富士町の特産品にしたいと日々奮闘されている。ご主人の実家のあった佐賀市富士町に移住。幻の果実と言われるポポーの商品開発を娘の美波さんと共に精力的に行っている。




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<取材記者>
山本 卓
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
山本 卓「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身。10代のころから役者を志す。夢を叶えてCMや大河ドラマをはじめ映画や舞台で活動。劇団「ブラックロック」の主宰を経て、海外公演を自主企画で成功させる。その後、キー局情報番組のディレクターとして番組制作に携わる。夢は日本を動かした100人になること! 地域の人に密着した動画作成や、人の顔が見えるマップを作りたくて移住を決意

