山暮らしの困りごと。「区役」ってなんだ?
- 2020.12.30
- written by 山本 卓

「山暮らしって一体どんな生活をすることなんだろう?」
住む前に移住生活を想像するのは難しい。僕はインターネットを使い山暮らしについて調べてみた。そこには見慣れない言葉が書いてありました。それは「区役(くやく)」です。
今回の編集部では「山暮らしの困りごと」というテーマで書くことになりました。
僕が山暮らしを始めるときに困った「区役(くやく)」について、体験談を交えながら、お伝えしていきます。
区役とは、集落を守るためにしなければいけない大切な行事。

移住する時こんな説明を受けました。「区役(くやく)に参加してもらうことになります」と。何をするのだろうかと戸惑ったことを思い出します。
そもそも区役とは一体何なのだろうか?
みなさんの住んでいる地域にも「自治会」があるでしょう。自治会が行う子供会であったり、ゴミ捨て場の清掃担当であったり。それと同じように、区役とは地域の景観を守るための清掃作業みたいなものと思ってもらえるといいと思います。
一言で区役といっても、活動内容は様々あります。例えば、集落に花などを植える「植栽活動」。年末年始を迎えるために行う「観音祭り」や「しめ縄作り」。集落の景観を守るために行う「草刈り」など。
そして……。この区役は、必ず参加しなければいけないということだったのです。地域によっては出られなかった場合、不足金として地域にお金を払わないといけないということもあります。(地域によって違いますので確認しておきましょう)
実際に佐賀の山に住み始めてすぐの頃「区役の為に年間を通してスケジュールを抑えられても、困るなぁ」と思っていましたし、
僕は「しなければいけない」というところに、めんどくささを感じていました。
理由は、強制的に感じたからです。人は強制的にやらされることに拒否反応を示します。
だってめんどくさいもん。(笑)
しかし、実際に地域に住み区役を経験すると、その必要性がわかってきました。区役とは、集落を守るためにはとても大切なことだったのです。
区役その1:草刈り区役。ストレス発散! 最高のエクササイズ

年に2回行われる草刈り区役。
朝7時。地元の公民館には草刈り機を持ち、手慣れた様子で準備を進めている集落の方々がいた。実際に草刈り機を持ったこともなかった僕は、集落の方々にエンジンのかけ方から、草刈り機の仕組みなど教えてもらった。
そして、さっそく草刈りスタート。
僕はいったん見て覚えることにした。集落の方々は、簡単そうに草刈り機を使い、どんどん雑草を切り倒していく。
その様子は、まさに武術!
体を滑らかに使いながら、力を抜き効率よく切り倒していくその様は匠の技。「簡単そうじゃん!」と思ったのは間違いで、実際やってみるととても難しい。自分が刈った後は、草刈りをしているのか、荒らしているのかわからないぐらいボッコボコ。
しかし数時間続けていくと、少しはコツを掴み、どんどん草を刈り進め、その時には……。
草刈りに夢中!
草刈りが楽しくて仕方なかった。どんどんきれいになっていく道を見て僕は、草刈りの面白さがわかった。それは「結果がすぐに見えること」そして「ストレス発散になる」ことだ。
草刈りを終えると辺りから感じる山の匂い、草木の匂いが自分を包みこんでいることにふと気が付いた。
「これは草刈りをした日にしか体験できない特権だよ」と教えてくれているようで、初めての草刈り区役では最高な時間を過ごすことができました。
区役その2:観音祭り「300年前には、すでに村は存在していた?」

11月末。山は霜が降り冬支度を始めている頃。早朝から草刈りを行い、祠(ほこら)までの神道を作っていました。この村を守ってくれている観音様をお祀りするのが、この「観音祭り」です。
初めて「お祭り」と聞いた時、出店とか出るのかな? なんて思ったこともありましたね。(笑) そうではなく、集落の皆さんと共に祠(ほこら)をきれいにし、神主さんを招き、集落で無病息災を願う。これも大切な区役の一つなのです。
祠を掃除しているとあるものを発見しました。それは歴史的価値のある鐘でした。村の皆さんとその鐘を磨いてみると、寛政二年と彫られていました。寛政二年というと、今から約300年以上前。その頃にはこの集落があった、という証拠。先人たちが守り、今こうしてみんなで守り続けていることのすごさ、そしてありがたさを感じました。
神主さんが、祝詞(のりと)をあげ、集落のみんなで祈りをささげる。その瞬間、僕も集落の一員になったような一体感を感じました。
これまで集落の為に、紡いで来てくださった先人たちに思いを馳せ、これからも守っていかなければならないなと思う、かけがえのない区役となりました。
過去から現在に。そして未来へつなぐ大切な行事。それが区役だった。
冒頭でも「区役には、必ず参加しなければいけない」と書きました。移住を考えている方にはとっては、めんどくさいことなのかもしれません。
しかし、あなたが移住を考えている土地は、昔も今も集落の方たちが手入れをして、守り続けてきたからこそ今も存在し続けることができている。区役は地域を守り続けていくためには、大切な行事だということは覚えていてほしい。
だから
「しなければいけない」ではなく「していかなくてはいけない」が
この言葉の裏には隠されているのだと思います。
過去から現在に。そしてこれから移住を考えてくれる皆さんと未来へ。
区役は未来へ繋げる大切な行事だったのです。


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<取材記者>
山本 卓
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
山本 卓「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身。10代のころから役者を志す。夢を叶えてCMや大河ドラマをはじめ映画や舞台で活動。劇団「ブラックロック」の主宰を経て、海外公演を自主企画で成功させる。その後、キー局情報番組のディレクターとして番組制作に携わる。夢は日本を動かした100人になること! 地域の人に密着した動画作成や、人の顔が見えるマップを作りたくて移住を決意

