娘のアレルギーが元で始めた米粉のおやつ作り。のがりを多くの人に届けるまで No.006 吉良朋美さん
- 2020.03.28
- written by 佐賀100編集部

吉良朋美さんは、旦那さん、二人のお子さんの四人家族。四年前に佐賀県脊振の山の中に移住してきました。吉良さんは、『天然菓房 のがり』として、アレルギーの子どもでも食べられる米粉のクッキーやケーキなどを作られ、ご自宅隣のカフェやECサイトで販売されています。どんなきっかけで移住されたのか、お菓子作りへの思いなどを伺いました。

現在も作り続けているマイコンテナハウス
移住のきっかけをお聞きしたいです。
もともと、夫婦ふたりとも田舎暮らしをしたいっていうのがあって。都会の喧騒というか、忙しさにまみれているのに若干疲れてしまったんです。生活のコストも、都会にいると住んでいるだけでお金がかかるので、生活するためにあくせく働かなきゃいけないっていうことに、意味がないかなって思ったんです。あと、子どもが小さいうちは自然の中でのびのびしてほしいというのがあって。色々探した結果、ちょうどいい場所がここだったという感じですね。
この土地はどんな風に探されたんですか?
福岡の糸島とか色々なところを見ていたんですが、自分たちにしっくりくるところがなくて。主人は田舎暮らししたいけど、快適な住まいじゃないとイヤと言っていて、そうだなと。古民家も検討したんですが、補修が必要になるし。どうしても寒かったり、虫が入ってきたりするから、それなら自分たちで建てたほうがいいものができるんじゃないかって。それで場所も限られてきて、不動産屋さんで整地された土地として、見つけたのがここだったんです。草ぼうぼうでしたけど(笑)。
わたしたちが建てた家はコンテナを改造したコンテナハウスなんですが、最初はコンテナが四隅に4つずつあるだけみたいな状態でスタートして。そこから、最初は旦那さんだけで家を作り始めてもらって、その間わたしと子どもたちはわたしの久留米にある実家にいたんですよね。
とりあえず1部屋は住める状態になってから、みんなでこっちに越してきて、住みながら作り続けている感じです。最初は窓もなかったし、吹きっさらしな感じでした……!
そこから四年ですが、まだ進行形で補修したりしてます(笑)。

娘のアレルギーがきっかけではじまった「のがり」

のがりはどんなきっかけで始めたんですか?
元々お菓子作りは好きでずっとやっていて、カフェをやりたいとか、お菓子を出すお店をやりたいという思いがありました。ここに来る前、福岡に住んでいたんですが、菓子製造ができる場所を貸していただいたんです。それをきっかけに、ちょっとずつ活動を始めました。その後、『のがり』をやることになったのは、娘が生まれて、アレルギーだったのがきっかけとしては1番大きいです。娘は卵、小麦粉、乳製品が食べられません。それがなければ今のこの店もなかったから、大変だったけど娘には感謝しています。
そうだったのですね。娘さんの存在によってうまれたお店だったのですね。
娘がアレルギーじゃなかったら卵や小麦粉、乳製品を使わないお菓子作りは、絶対やってないことでしたね。マクロビぐらいまではやってたかもしれないけど、そんなにストイックにやれなかったかなって。
当時はレシピもそんなになかったので、簡単にはできなくて、必要に迫られたからこそやれたことというか。
その後、活動を広げていったんですね。
アレルギーに対応したものを作るようになって、色々調べていくと、結構アレルギーのお子さんが多いことがわかったんですよね。困られてる方たちがいるなら、その方たちにも届くようにと考えました。そして、できるだけ素材にこだわりたいと思って。どうせ作るなら地元のものだったり、無農薬のものだったり、少しでもいいものを使ってやりたいなと考えて、『のがり』の形になっていきましたね。

のがりさんの米粉のクッキーはどんなところにこだわって作っていますか?
基本的には佐賀で採れるものを使っていて、どうしても手に入らないものだけ無農薬や素材にこだわって別のところから取り寄せて作っています。米粉に関しても、粒子の細かさによって仕上がりが全然違うので色々試しました。今は佐賀で作られている粒子の細かい米粉をずっと使わせていただいています。甘味も白砂糖は使わず、有機メープルシロップや有機きび砂糖、あんこにはデーツを混ぜたりしています。それから、基本的には酸化しにくい有機ココナッツオイルを使っています。動物性のものは入っていないです。
身体に良い素材を使って、おいしく楽しめるお菓子を作ることが、のがりの目指しているお菓子作りなんだと思います
素材のひとつひとつにこだわりがあるんですね。現在は主にどんなところで販売されているんですか?
今は佐賀市内のポコアボッコというオーガニック商品など女性を応援する商品を扱っているお店やげんき畑の八百屋さん、福岡市内などにもおろしています。こだわりの商品を取り扱っているお店さんが置いてくださることが多いです。あとは自宅隣のカフェと、オンラインでも販売しています。

オンラインで売られているクッキー缶、とても可愛いです。
クッキー缶を始めてからは、やっぱりクッキー缶の注文が多いですね。
特にクリスマスの時期はすごく注文が多かったです。
このクッキー缶の中身やデザインはどんな風に決められているんですか?
一応月ごとにテーマを変えているのですが、1月はイベントがないので、難しかったです……。毎月締め切りに追われています。(笑)
やっぱりできるだけ山暮らしだから、野草とかを使いたいとは思っているんですが、冬になると野草が減ってしまうので、一月は野草の代わりに干し柿を入れたりしました。他にも松の葉っぱは栄養があると聞いたので松も入れました。野草になるのかわからないんですけど。(笑)
あとは野イチゴをつんで、イチゴ代わりに使ったりとか。
春になったらまた色々な野草がでてくるんでしょうか。
そうですね。露草の時期は露草を押し花みたいにすると、見た目もかわいいし、雰囲気が出ますね。
どの商品が一番人気ですか?
それぞれファンがいるのですが、お子さんに一番人気なのはお魚のビスケット。形も可愛いしメープル味なのがいいみたいです。スコーンも定番な感じですね。
取材にきてますが、何を買って帰ろうかすごくワクワクしてます。甘酒塩こうじクラッカー、玄米チョコサンドクッキー、米粉のスコーン、無農薬イチゴのタルト……。(笑)
時間はゆっくり、生活のコストは減る…暮らしの様子

暮らしは楽しいですか? どんなときに移住してきてよかったなと思うのでしょうか。
暮らしは楽しいですね。やっぱり時間の流れがゆっくりっていうか、のんびりした空気が常に流れているので、住んでいるだけで癒されます。
この自分たちで作った空間にいるだけで、毎日カフェにいるような感じというか、非日常というか。
あとは、生活の基本的なコストがやはり減りました。住んでいるだけでお金がかかる都会を抜け出したくて、ここに来たのでよかったと思っています。今はまだ完全には抜け出してはないですが、家賃も、駐車場代もいらないし、水道も井戸にしたから水道代もいらないし。電気ガスはまだ使ってますけど。ネットも繋がるし山奥でも困ることはないんですよね……。
そうですね、都会は駐車場台だけでも3万円とかしますよね。
やっぱり生活の桁が全然違うんですよね。そうすると働き方も変わってくるので、本当によかったなと思います。
お子さんは、佐賀のお山に来てみて、どうでしょうか?
上の息子がが、今小学3年生なんですが、もともと虫が好きだったから、虫とか魚とか生き物を採るっていうのができるから、こういう暮らしは楽しいようですね。冬はあんまり生き物が採れないからつまらないみたいですけど、夏とかは生き生きしてますね。
楽しんでいるんですね。
娘は小学1年生で7歳なんですが、たまに都会に行きたいって言います(笑)。ホテルに泊まりたいって。そういう綺麗な空間に、たまに行きたいらしいんです。
大人ですね。(笑) それはそれで分からなくもないです。
お肉が米に野菜に!物々交換な暮らし

旦那さんが猪などを狩ってさばいたりしているとも伺いました。それはどんな風に活用しているのですか?
自分たちでも食べていますが、その他に物々交換もしていますね。移住して来た方や山で暮らしている方って自分で何かされてる方が多いから、全部自分で賄わなくても、物々交換で自分で作れないものを手に入れることができます。うちは肉ならいくらでもあるよって言えるので。お米とか野菜とか薪と交換したりしています。
そこはお菓子とかじゃなく、肉なんですね。
そうそう、肉なんです。肉ならいくらでもあって……。(笑) 猪は夫が狩っているんですが、うちは犬もがんばっています。猟犬じゃないんですけど。実は結構犬のほうが最近は活躍してて。
すごいです。ドンくん(吉良さんの飼い犬)めちゃめちゃ人懐っこくて可愛い子ですよね。

旦那さんのお仕事は「狩猟と家のこと色々」
旦那さんは狩猟がお仕事なんですか?
今はそうですね。狩猟したり、家のことをしたり。もともとはITの仕事をしているので、そちらも継続してはいて、最近はそんなにですが、のがりのHPや、ロゴなども主人が制作しています。
(横で聞いていた旦那さん):僕はこの人が(ともみさん)真面目に取り組んで作っているものを、そのまま正直に世の中に出せればいいなと思っています。
素敵です…! ITのお仕事をたまにやられつつ、今はメインは狩猟や家のことなんですね。
田舎暮らしって、生活に関するやることが多いじゃないですか。薪を割ったり、なんだかんだ、家のことをすることの手数が多いから、それにとられる時間が多いんですよね。
家のことはお2人で分担してやっているんですか?
発注状況にもよるんですが、私は大体ほぼ毎日お菓子作りで手いっぱいなので、ほぼほぼ主人が家のことをやっていますね。
素敵な分担ですね。
今後の挑戦と移住希望者の方へのメッセージ

今後、挑戦してみたいことはありますか?
今はまだケーキの発送まではやっていないので、通販で冷凍のケーキを少しずつ増やしてみたりしたいですね。
あとは、今度自宅でおやつ教室をやるのですが、遠方の方とか直接はお越しになられない方から、ネットで動画配信をしてもらえないですか、と問い合わせがあったので、考えてみようと思っています。自分のレベルが全国区になるほどかな……という感じもするので、悩みますが。(笑) そういうこともやってみたいですね。
楽しみです。最後に、移住を考えている方へ向けてメッセージをお願いします。
たぶん、みなさん移住の1番のネックって、仕事なんじゃないかなと思うんですよね。でも意外と佐賀の、特に脊振、三瀬などこの辺りの山は福岡にも近いし、どこへ行くにも、1時間もあればつくんですよね。だから、意外に仕事には困りません。
生活自体もスーパーとかであればすぐ近くにあるし。あと高速も近いので、住んでみたら意外と不便はなくて。、多少の不便を差し引いても、ここに住む価値でいうと、プラスの方が大きいです。もちろん、田舎ならではの大変さは、ないこともないですけど。昔から住んでる方たちとの交流の面では多少都会とは違う面もありますが、ここに住む価値に比べれば全然問題はないですね。なので移住に興味がある方は、ぜひチャレンジしてみてほしいです。
山の暮らしのハードルは高そうに見えますが、チャレンジすれば意外とすぐその素敵な暮らしに手が届くのですね! 本日はありがとうございました。
移住に関するお問い合わせ・相談はこちらまで。
ー 編集後記 ー
一見クールで何とも言えないミステリアスなオーラが素敵な吉良さんですが、暮らしにまつわる楽しいエピソードを気さくにユーモアを交えながらたくさんお話してくださり、山の暮らしについてより強く興味がわきました。中でもコンテナハウスは憧れです。
吉良さんのコンテナハウス内はすごく居心地がよく、もうずっとのんびりしていたくなって、気づいたら時間の感覚がなくなる不思議な居場所でした。
米粉のクッキーやスコーンなどのお菓子もたくさん買いましたが、すごくおいしくてなくなるのが悲しく、大事に食べました。季節限定の無農薬イチゴのタルトは、米粉クッキー生地のタルトに、ココナッツの風味が重なって、本当においしかったです。のがりさんのお菓子は、のがりさんのカフェに訪れても、通販でも購入できるので、気になる方はぜひ注文してみてくださいね。


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<お世話になった取材先>
天然菓房 のがり
吉良 朋美さん
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<お世話になった取材先>
天然菓房 のがり吉良 朋美さん
福岡からご家族と共に佐賀・背振に移住。娘さんのアレルギーをきっかけに米粉のクッキーなどのアレルギーを持つ子どもでも食べられるお菓子の製作をスタート。「天然菓房 のがり」として、米粉クッキーやタルトの販売、カフェ運営、ECショップの運営を手がけています。
天然菓房 のがり
住所:〒842-0203 佐賀県神埼市脊振町服巻1126
Google Map営業時間:木・金・土・日・祝日の10時〜18時
ホームページ:https://www.nogari.cafe/
通販サイト:https://shop.nogari.cafe/
Facebook:https://www.facebook.com/nogari.sweets※イベント出店等でお休みの場合もあるので、Facebookやインスタグラム
でご確認の上ご来店下さい。
駐車場:あり




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<取材記者>
佐賀100編集部
「佐賀のお山の100のしごと」編集部
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<取材記者>
佐賀100編集部「佐賀のお山の100のしごと」編集部
「暮らすようにはたらこう」 山には暮らしの中に仕事があり、人と人とがつながり、お互いに助け合い、人間臭く生きている社会があります 佐賀のお山にある100のしごとでは、100人の暮らすようにはたらく人たちの地域ならではの暮らし方、働き方、古くて新しい価値観を、丁寧に取材していきます このローカルメディアを通して、佐賀のお山の暮らしのことをもっと知ってもらい、佐賀のお山の暮らしを一緒につないでいく新しい仲間に出会いたい そんな想いで「佐賀のお山の100のしごと」を綴っています

