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【インタビュー】商店街を知らない子どもたちへ。OK COFFEEオーナー福山さんが残したい商店街の記憶と風景「FREE COFFEE WALK」

【インタビュー】商店街を知らない子どもたちへ。OK COFFEEオーナー福山さんが残したい商店街の記憶と風景「FREE COFFEE WALK」
吉野ヶ里町地域と人
吉野ヶ里町

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佐賀県吉野ヶ里町。駅前の静かな通りが、年に一度だけ人であふれる日があります。「FREE COFFEE WALK」と名付けられたこのイベントを続けているのは、「OK COFFEE Saga Roastery」を営む福山さん。三代続く家業を継ぎながら、仲間とともにコーヒーを通して街と関わる道を選びました。人口減少や商店街の衰退を嘆くのではなく、「だからこそ、やる意味がある」と語る福山さん。6年間積み重ねてきた活動の背景と、街とともに歩むこれからについて伺いました。

福山 徹(ふくやま とおる)さん
OK COFFEE Saga Roastery オーナー
佐賀県吉野ヶ里町出身。三代続く判子製造業を継ぎながら、「OK COFFEE Saga Roastery」を拠点に、コーヒーを通した地域活動を展開。人口減少や街の変化を前向きに捉え、継続することの力を大切にしながら、地域の記憶と未来をつなぐ活動を続けている。
https://www.rakuten.co.jp/okcoffee
https://www.instagram.com/toru_fukuyama


イベント「FREE COFFEE WALK」が目指す“商店街の原体験”

― 回を重ねるごとに規模も大きくなっているそうですが、改めてこの「FREE COFFEE WALK」は、どんな位置づけのイベントとして開催しているのですか?

この取り組み自体は、無料でコーヒーを配る回数としては今回で6回目になります。「FREE COFFEE WALK」という形にしたのは4回目で、2023年から毎年1月に開催しています。回を重ねるごとに少しずつ規模も広がってきました。
やっぱりご家族で来ていただいて、この町を歩いてもらえるのは本当に嬉しいですね。特に子どもたちがすごく声をかけてくれて、関わっているうちに顔なじみの子どもたちがどんどん増えてきました。
今日はコーヒーを800杯分用意していますが、正直それでは足りないかもしれません(笑)。一緒にお配りする抽選券を800名分しか準備していないので、それを超えたらもう数が把握できなくて、急遽追加で作るしかない状況ですね。
出店者は、もともとこの場所で日常的に営業している5店舗に加えて、店頭出店やキッチンカーが15店舗、合計20店舗が並んでいます。駅南エリアに元からあるお店と、その間の通りに店舗が並ぶことで、この一帯を昔の ”商店街” として再現するイメージです。実はここ、もともとは「吉田商店街」と呼ばれていた場所なんです。その名前の通り、駅南エリア全体を1日だけでも ”商店街” として感じてもらえるような空間づくりを目指しています。

行列の先頭で声をかけ、流れを整える福山さん。一人ひとりに目を配りながら、イベント全体を支えている。
開店前から通りに伸びる長い行列。1日限りの“商店街”に、久しぶりの賑わいが戻ってきた。

―この辺りは、福山さんご自身の原体験が色濃く残っている場所でもあるんですよね。そうした幼少期の記憶や、この建物・街並みへの思いが、今の活動にどうつながっていると感じていますか?

店舗の数軒横の店舗は昔プラモデル屋だったんですよ。そこでミニ四駆をよく買っていました。今はアパートになっていますけど、当時は空き地だった場所で、ミニ四駆を走らせて遊んでいました。今はプラモデル屋はやっていませんが、名残だけは残っていて、入り口に貼ってあるシールとかがすごく懐かしいんです。「京商」とか懐かしいなって思いますし、「タミヤ」は今でも有名ですけど、子どもの頃に見ていたこの街の風景が僕の原点ですね。
周辺の建物も、よく見てもらうとOK COFFEEと雰囲気が似ていると思うんですけど、昔から商店としてつくられていて、かつてはたくさんのお店が並び、賑わっていた場所なんです。だから僕らも、外観を大きく変えることはせずに、できるだけ当時の姿を残しながら、街の風景を活かした形で営業しています。

一杯ずつ手渡される、あたたかなコーヒー。「ありがとう」の言葉が、通りのあちこちで交わされる。

このイベントの趣旨としては、いわゆる「街の活性化」という側面もありますが、それ以上に、 ”商店街” のアイデンティティを未来の子どもたちに残したいという思いが強いですね。僕はいま38歳なんですけど、商店街としてきちんと機能している姿を知っている世代としては、もうギリギリの世代で、30代以下の方たちはほとんど知らないと思います。
だからこそ、かつて商店街だったこの場所を、1日だけでも以前のように人が行き来し、笑顔があふれる場所として楽しめる雰囲気にして、「こんなに人が集まって賑わう通りだったんだよ」ということを、今の子どもたちに見てもらいたい。そうすることで、将来「自分も何かやってみたい」と思うきっかけになるかもしれないと考えています。商店街の火を絶やさないために未来につなげていきたいんです。こうした思いに、この通りの店舗をはじめ、周辺地域の皆さんが賛同して、協力してくださっています。

昭和の一杯が呼び戻す、商店街の記憶

―本業がある中で、コーヒーという事業を通して街と関わろうと思ったきっかけを、もう少し詳しく教えてください。

僕の実家はもともとは判子の工場をやっています。87年続く事業で、祖父の代から数えて僕が3代目になります。なので、3代にわたってこの街に育ててもらったという思いが本当に強くて、7年前に事業を継いだ時、「判子だけを続ける」だけじゃなく、この地域に根ざした仕事を増やすこと自体が、街の未来につながるんじゃないかと考えるようになりました。
特に気になっていたのが駅前の寂しさでした。人が集まる場所さえあれば、そこから何かが生まれるきっかけになる。そう考えていた時に、もともと友人だった岡田君が大阪で営んでいるコーヒー屋を訪ねたんです。店内に人が集い、楽しそうに話している光景を見て、「これだな」と直感的に思いました。実際、今日も彼は現場でコーヒーを淹れています(笑)。
「OK COFFEE」という名前は、その岡田君のカフェの屋号です。佐賀の店舗は正式には「OK COFFEE Saga Roastery」という名前で、OK COFFEEの本店自体は大阪にあります。僕は最初から、自分が単独で始めるというよりも、仲間と一緒に店舗を広げていくイメージを持っていました。佐賀で豆を焙煎し、大阪に出荷する体制を整え、「佐賀焙煎所」という意味で「Saga Roastery」を立ち上げたんです。

途切れることのないお客さんに応えるように、次々とコーヒーを淹れる岡田さん。現場には、心地よい緊張感と香ばしい香り、そしてたくさんの笑顔が広がっている。
 

今は大阪、東京、そして佐賀の3拠点で展開しています。東京は目黒に1店舗あって、焙煎はすべて、ここ佐賀県吉野ヶ里町で行っています。吉野ヶ里で焼いた豆を、毎月100キロ以上大阪に出荷したり、東京にも60キロほど出したりしていますね。

大阪で訪れたカフェやこれまで参加したイベントなどでコーヒーを通して街が賑わっていく感覚は、すでに体感していました。だからこそ、「OK COFFEE Saga Roastery」を拠点に、まずはご近所への挨拶として無料でコーヒーを配り始めたんです。すると、コーヒーを渡すだけで通りがどんどん賑やかになっていく。その様子を見て、2023年からはきちんとイベントとして形にして、出店者を募って、1日限りの商店街を復活させるイメージで「FREE COFFEE WALK」を行うようになりました。

スタッフ総出で立ち回る、フル稼働の「OK COFFEE」。その忙しさの先に、人が集い、街が動く瞬間がいくつもある。

―これだけ多くの人が集まり、地域の方々も協力的ですが、改めてこの光景を見て、どんな手応えや実感がありますか?また、OK COFFEEとして大切にしている価値観についても教えてください。

正直、想像以上に早い時間からたくさんの方に来ていただいて驚きました。しかも出店場所は、元々は一般住宅の駐車場もあるんです。普通なら「迷惑だな」と思われてもおかしくない状況なんですけど、この地域の方々は、かつてこの場所が商店街だったというアイデンティティをちゃんと持っていて、「どうぞどうぞ」と受け入れてくれる。その理解の深さや、商店街を大切にしたいという思いが、このイベントを支えていると感じます。
OK COFFEEとして大切にしているのは、「昭和のコーヒー」という軸です。味が美味しいのはもちろんですが、今流行っている軽やかな酸味のあるコーヒーではなく、40代以上の方が青春時代に飲んでいた、黒くて苦くて濃い、純喫茶のコーヒーをできるだけ再現したいと思っています。眠気覚ましに飲むような、あの時代の味ですね。今日出しているコーヒーも、すべて少し苦めで濃い仕上がりにしています。世代によって「コーヒーの原体験」は違うと思いますが、僕自身は完全に昭和のコーヒー派です(笑)。

提供:福山 徹さん
昭和50年頃の吉田商店街。当時は子どもから大人まで多くの人で溢れて活気が伺える。
人の流れが、通りを埋め尽くす。かつて商店街だった場所に、久しぶりの賑わいが戻った日。

街の子どもたちに“かつての賑わい”を見せる意味

―人が減っていく、街が廃れていくという現実に対して、福山さんはとても前向きな捉え方をされていますが、そうした考えに至った背景にはどんな思いがあるのでしょうか?

吉野ヶ里という街について、人が減っていくとか、建物が少なくなっていくことを、僕自身はあまりネガティブに捉えていません。止めようがない流れだと思っています。だったらそれをどう活かすか、どう楽しむかだと思うんです。もしこれを大都会のど真ん中でやっていたら、正直ただ埋もれて終わるだけだと思います。でも、佐賀県の少し廃れてきたこの場所だからこそ、僕がやる意味が最大化される。だから「人が少ない」「廃れている」という状況そのものを、ポジティブに楽しもうという感覚ですね(笑)。
もし、ここが毎日人通りの多い場所だったら、今日みたいに人が並んだら逆に問題になります。絶対に怒られますよね(笑)。でも、今はそうじゃないからこそ、やる意味がある。ネガティブに傾きがちな社会だからこそ、その空気をひっくり返して、楽しみながら前向きにやろうというスタンスです。人が減るのを止めることはできないので、その先でどう旗を振るか。僕はただ、その先駆けになりたいだけなんです。
誰かに付いてきてほしいとか、リーダーになりたいというより、僕のやっていることを見て「あ、俺もやってみようかな」と思う人が一人でも増えればいいと思うんです。それが5年後、もしかしたら10年後に芽を出すかもしれない。そのために、毎年実直に続けて、写真や記録を残して、知ってもらう。今日もカメラマンや報道の方が来てくださっていますけど、そうやって記憶や記録として積み重ねたものが、次につながっていくと思っています。

湯気の向こうに切り取る、思い出の一杯。コーヒーと一緒に、お客さんもこの日の記憶をカメラに収めていく。

「FREE COFFEE WALK」の開催は今回で4回目になりますが、街の方々は基本的に応援してくれています。もちろん駐車場の問題や交通渋滞など、ご迷惑をかけている部分もあるとは思いますが、近所の方から「新聞に載ってたね」「みんな行くって言ってたよ」と声をかけてもらうこともあって、喜んでもらえている感触はあります。駐車場も役場に正式に申請して借りていますし、町長も毎回来てくれます。プライベートで足を運んでくれていて、そういう意味ではかなり公認のイベントになってきていると僕は勝手に思っています(笑)。
告知は基本的にインスタグラムです。出店する20店舗すべてに同じ告知データを共有して、文章もこちらで用意して「これを投稿してください」とお願いするだけ。そうすると、フォロワー数の多いお店の力も合わさって、10万回、20万回と再生される。そこに新聞やテレビの掲載が重なって、今の集客につながっています。SNSとメディアの両輪で、かなり戦略的にやっています。
これまでやってきて、特に印象に残っている出来事があって、今は住宅のカーポートの下で出店している場所で、小学4年生の子が「ここ、本当に商店街だったんだね」と言ってくれたんです。その一言がすごく嬉しかった。商店街の存在は知っていても、体験したことがない子どもたちが多い。だからこそ、この雰囲気を実際に体感して、「いつか自分もやりたい」と思ってもらえるきっかけになればいいんです。
今日1日の賑わいは、今日だけのためじゃない。これが5年後、10年後につながっていく。そう信じて、続けていきたいと思っています。

ワッフルの甘い香りに、人が自然と集まる。笑顔で手渡されるワッフルも、この日の風景の一部。


―これからの「OK COFFEE」や「FREE COFFEE WALK」の展望、そして若い世代や地域に関わる人たちへ、伝えたいメッセージがあれば教えてください。

これからの展望として、正直に言うと、何か大それた野望があるわけではないんです。僕らの活動を通して、佐賀の人や事業者の方が一人でも多く、一緒に楽しみながら儲けて、街が少しでも潤い、賑やかになればそれでいいと思います。小さな街や廃れてきた場所でも、こうした活動を続けていけば、ちゃんと応援してくれる人が現れるということは、すでに実感しています。
6周年を迎えているからこそ言えるんですが、1回目や2回目の賑わいでは意味がない。やっぱり「継続は力なり」で、積み重ねてきたからこそ、今の規模になっていると思っています。ただ、その一方で、正直もうキャパオーバーだとも感じていて、来年は形を変えないと厳しいかもしれません。なので、次はどうするか、この1年またしっかり考えようと思っています。

ずらりと並ぶパン。コーヒーの香りに誘われて、選ぶ時間も楽しいひととき。

イベントとしては、同時に「儲ける」こともすごく大事にしています。出店している事業者さんが全部売り切れる状態を目標にしています。パン屋さんが完売しているのを見ると、僕も嬉しいです。僕らはコーヒーを無料で配るけど、他の商店の皆さんはしっかり売り上げが立つ。出店料も取らないし、こちらが勝手に告知して、仲間と一緒にやるだけ。そういう関係性で続けていきたいです。
だから「みんな吉野ヶ里町に来てほしい」という話じゃなくて、それぞれが自分の地域でやればいいと思うんです。特に佐賀県には、ここと同じような場所がたくさんあると思います。また、各地には同じような思いを持って動ける人がきっといるはずだとも思っています。そして、いろんな地域の人たちが横のつながりで広がっていけばもっと大きな輪になって、もっと大きなことができそうじゃないですか。

OK COFFEEのロゴ。この場所から、何かがはじまる。 コーヒーをきっかけに、人と街をゆるやかにつないでいく。

だから、自分に縁のある土地や人と、どう生きていくかを一度考えてみてほしいですね。僕はここで、祖父たちが育った時代の写真や町の現状をずっと見てきました。3世代お世話になった街なので、愛着どころじゃなくて、もう「家」なんですよ。ここに人生をかけられる。この街と一緒に生きて、最後まで向き合えると思えるのなら、そのために力を尽くしていきたいと考えています。

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