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「卵大好き20代東京女子が佐賀に移住して養鶏場をオープンさせるまで」田中麻衣さんインタビュー

「卵大好き20代東京女子が佐賀に移住して養鶏場をオープンさせるまで」田中麻衣さんインタビュー
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神埼市脊振町の養鶏場「本間農園」で研修中の田中麻衣さん。卵かけご飯のおいしさを追究するうちに、養鶏にも興味を持ち、鶏と同居した経験から本格的に養鶏の道へ。卵かけご飯の店舗運営や一年に及ぶバンライフ(※)など抜群の行動力で自らの道を模索してきた田中さんにこれまでの道のりと自らのキャリアや属性を活かした養鶏場のビジョンを伺いました。

※…車で移動しながら生活するミニマルなライフスタイル

田中 麻衣(たなか まい)さん
本間農園研修生
東京都生まれ。学生時代に卵かけご飯のおいしさに目覚めたのをきっかけに、卵かけご飯の店舗運営やInstagramでのレシピ発信を始める。その後、佐賀の本間農園での農業体験、一年に及ぶバンライフを経て、2025年春から新規就農に向けた研修をスタート。来春に自身の養鶏場をオープンする予定。
https://www.instagram.com/tkg_world_

おいしくて映える卵かけごはん

インタビューの前に田中さんおすすめの卵かけごはんを紹介!

パフェグラスで食べるかわいいTKG

卵を冷凍庫で二晩凍らせ、黄身は醤油漬けに、白身はメレンゲにして、白米とともにパフェグラスに盛り付けたTKG。

卵を凍らせることで箸できれいに割れるほど黄身がむっちりし、味も濃くなる。

焼きおにぎりTKG

焼きおにぎりの上に生卵の黄身を載せたシンプルなTKG。

卵の奥深さに魅了され、鶏との同居も経験

—養鶏の道に進んだ最初のきっかけは、学生時代に卵かけご飯のおいしさに目覚めたことだったそうですね。卵かけご飯のどこに魅力を感じたのでしょうか。

小さい頃から、朝ごはんがお米だったら絶対卵かけご飯にするぐらい好きでした。大人になってからも周りに卵が好きなキャラとして覚えてもらっていて、知り合いが教えてくれた卵のイベントに行ってみたんです。 60種類ぐらいの卵が並べられていて、産地や育て方で殻や黄身の色、形や大きさがまるで違うことを知りました。それまで、卵って一種類しかないと思っていたんですよね。なんでこんなに違うんだろうってびっくりして、ネットで色々調べて、飼い方や餌のことを初めて知りました。おもしろいな、養鶏の現場を見てみたいなと思ったのがきっかけです。それから、養鶏場の見学に行くようになりました。

神埼市内にある本間農園の鶏舎。鶏たちは鶏舎内を自由に動くことができる。

–養鶏場の見学と並行して、卵かけごはんのお店の運営もされていました。養鶏と店舗運営のどちらの選択肢も選べた中で、なぜ養鶏の道に進まれたのでしょうか。

売り上げなどを考えたときに、この先ずっと続けていけるのかなという不安がありました。
そんな時に、福岡で卵かけごはんのお店を経営している方から「よかったら福岡に来ないか」と声をかけていただいたんです。そこで一年間いろんな仕事をやらせてもらいました。

卵かけご飯のお店をされていた時の写真(写真提供:田中麻衣さん)
卵かけご飯にするために冷凍させた卵。まんまるでつやつやとした見た目が印象的。

お店でお客さんやスタッフの人に鶏の写真を見せたり、鶏のことを話したりするのがとてもおもしろくて。本間農園のお手伝いに行き始めたのもこの時期です。でも、自分が養鶏家になるとはまったく思っていませんでした。

(写真提供:田中麻衣さん)
(写真提供:田中麻衣さん)
田中さん自らが考案した卵かけご飯のレシピをInstargamで発信している。(写真提供:田中麻衣さん)

転機となったのは、「ラムネちゃん」との出会い。ラムネちゃんは本間農園の鶏舎の奥の方にうずくまっていた鶏です。左足が使えなくてケンケンしてて、ずいぶん痩せていて。一週間ぐらいしたら出荷(と殺)しようかという話になっていたけれど、寒い時期でそれまで持つか心配だったから自分の部屋で飼わせてほしいと相談しました。
同居してからは、ラムネちゃんの一挙手一投足を夢中になって眺めていました。羽をめくった途中がどうなっているかを見たり、顔を間近で観察してみたり。とにかくかわいかったんです。一日のうち3時間ぐらい眺めていて、動画もたくさん撮っていたからスマホの容量もなくなってしまいました。

SNSで発信していたラムネちゃんの様子(写真提供:田中麻衣さん)

そこで、動画の配信アプリならアーカイブが残せるなとひらめいたんです。普通は、かわいい女の子やかっこいい男の人がしゃべったり歌ったりするアプリなんですけど、私はラムネちゃんと喋ってました(笑)。見ている人からは「鶏っておもしろいんだね」「今鳴いたね」とリアルタイムでコメントをいただけて、大きな反響を感じました。

ラムネちゃんと田中さんの関係性はメディアからも注目された(写真提供:田中麻衣さん)

はじめは「一週間持つかどうか」と言われていたラムネちゃんは3ヶ月半も生きてくれました。一緒に暮らして一緒に寝ていたので愛らしい存在になりましたし、鶏の魅力を伝えることにやりがいを感じた出来事でしたね。

田中さんの自宅でくつろぐラムネちゃん。ラムネちゃんと過ごした時間は、田中さんにとってかけがえのないものとなった。(写真提供:田中麻衣さん)

東京出身の女子が佐賀で就農しようと思った理由

—養鶏の道に進むことを決心した後、一年半に及ぶバンライフの旅に出られます。全国のさまざまな農家を巡っていたそうですね。

バンライフにはずっと憧れがあり、いつか絶対にやりたいなと思っていました。一度養鶏の仕事を始めてしまうと長く休むことが難しくなるので、やるなら今だ!と。どこでどのように就農するか決めていなかったので、場所を探したかったのもあります。
各地の農家さんの元で仕事を手伝いながら寝食を共にして、まるで家族のように暮らしていました。お金を稼ぐだけでなく、ちゃんと自分のやりたいことを考えている方が多かったので、そういう話をする時間も貴重でしたね。

自らの手でキャンピングカーを作り、全国各地を旅した。その様子もSNSで発信。バイタリティと発信力は田中さんの強み。(写真提供:田中麻衣さん)

—旅を終えた後、再び佐賀の本間農園に戻ってこられました。その理由はなんでしょうか。

本間さんたちは私が卵かけごはんのお店をやっていた時期から知ってくれていて、旅に出る前の4ヶ月は住み込みで養鶏のお手伝いをさせてもらっていました。
旅に出てしばらくした頃、本間農園に寄ったら「移住や新規就農をするならできることはサポートするよ」と本間さん一家が声をかけてくれたんです。
人と一緒にやるって難しい部分もあると思うのですが、本間さんたちは私を悪いようにはしない、という絶対の自信がありました。そういう人って本当に限られていると思うんです。自信を持って「本間さんとやろう」と決めました。

本間農園の本間昭久さんと。本間さんは「田中さんは娘のような存在」と語ってくれた。

—本間農園の魅力を教えてください。

本間農園の一番の特徴はひよこの時期から飼っていることです。これまで40ぐらいの養鶏場を見てきましたが、大抵は成鶏を業者から買って鶏舎に入れます。ひよこから飼うと、利益が出るまでに時間がかかるし、病気で死んでしまうこともある。だから生き延びた個体だけを仕入れた方が効率的、という考え方になるんです。 本間農園では、ひよこの初めてのご飯を手から直接食べさせ、寝床の環境も菌と共生して免疫を作るようにしています。

本間農園で飼われている鶏たち。養鶏場によっては、鶏はケージの中から出ることなく一生を終えることもあるが、本間農園では生き生きと鶏舎の中を駆け回っている。

そういう考えも素敵ですし、鶏舎は全て(本間)昭久さんが手作りしたものなんです。私もバンライフのためにキャンピングカーを作った時、自分ができることを増やしたり、周りに自分のやりたいことを伝えたりしていました。そうしたら周りが「これあげるよ」と助けてくれたんです。そうやって作ったものだから愛着が湧くし、最終的に自分のスキルも上がりました。お金がないからできないではなくて、やれる方法を考えようというところが共通しているし、昭久さんのところで養鶏を学びたいと思った理由でもあります。

バンライフのキャンピングカーを自作している様子。(写真提供:田中麻衣さん)
バンライフ時代の相棒であるニワトリのぬいぐるみと卵かけご飯と。好きなことにまっすぐな田中さんの姿勢が道を切り開いてきた。

—養鶏は命に関わる仕事で、ときに大変なこともあると思います。どのあたりにやりがいや魅力を感じていらっしゃいますか。

鶏が衰弱したり、出荷に出したりと辛いこともあります。弱った子は出荷前に隔離してかわいがるんです。抱っこして、餌も手であげて。本当に生きているんだなと感じると愛着が湧くし、心を鬼にして送り出すけど葛藤もあります。ペットと家畜動物の区切りってどこにあるんだろう、とか。でも、鶏肉も卵も大好きだからこそ、そういう部分も自分でやりたいと思いますね。

卵を収穫する様子。鶏は暗所で卵を産むため、鶏舎の隅に蓋つきの採卵箱を設置している。

モチベーションは鶏がかわいい!大好き!という気持ち。
毎日、鶏舎で鶏をぎゅーっと抱きしめています。ちょうど私の腕の中に収まるサイズなんですよ。腕の中でちっちゃくコーって鳴くのがたまらなくかわいいです。

田中さんにとって鶏を抱き締めるのはセラピーのようなものだそう。

アイデアと発信力で卵や鶏を知ってもらうきっかけをつくる

—2026年5月に自身の養鶏場をオープン予定。規模感やビジョン、今後やっていきたい活動について教えてください。

規模としては約400羽を飼育予定です。養鶏と並行して、イベントや情報発信など鶏や卵の魅力をどうやって伝えるかにも時間をかけていきたいと考えています。
畜産のリアルを伝えるのも大事ですけど、その表現の方法って結構大事だなと思うんです。ロゴやパッケージのデザインなど「入り口」となる部分も大切にしたい。一方で、SNSや配信ではリアルな部分—鶏が元気に鶏舎の中を駆け回っている様子など—を伝えていく。そういう活動から、“鶏好きの女の子がやっている養鶏場の卵”といったように、ストーリーが生まれて、鶏や卵のことがもっと伝わりやすくなればいいなと思っています。

鶏たちの様子を見守る田中さん

ゆくゆくは、私が卵や鶏を好きになった原点と言える「食」に立ち戻る活動もできたらな、と。卵を産む親鶏は2年ぐらいで出荷されることがほとんどなので、そこでできたお肉をレトルトカレーに加工して販売したいです。
養鶏場でできた卵は全国に配送予定なので、私のおすすめの卵かけご飯のトッピングやレトルトカレーも一緒に送れるようにするのが目標です。

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