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「アウトドアを楽しみながら生きる力を培ってほしい」古川陽進さんインタビュー

「アウトドアを楽しみながら生きる力を培ってほしい」古川陽進さんインタビュー
唐津市地域と人
唐津市

「自然の中で遊んだり、体を動かしたりする中で人間が持っていた野生的な感覚を取り戻してほしい」と語るのは、唐津市でアウトドア体験を提供する『たいようアウトドア』の古川陽進(ふるかわ ようしん)さん。30年近くアウトドアガイドとして経験を積んだ古川さんの提供するマリンアクティビティやサイクリングは関東や関西からのお客さんもおり、県内外から注目を集めています。Uターン組である古川さんのこれまでの歩みや『たいようアウトドア』のポリシー、子ども向けの体験に力を入れる理由など、古川さんの感性や佐賀のアウトドアの可能性を感じるお話をたくさん伺いました!

古川 陽進(ふるかわ ようしん)さん
たいようアウトドア代表
唐津市に生まれ、大学進学を機に北海道へ。卒業後は、四国やオーストラリア、関東でアウトドアガイドやプロのラフティング選手として活躍。2015年に唐津市にUターンし、2016年に『たいようアウトドア』を設立。SUPや川下りツアー、サイクリング、キャンプなどのアウトドアアクティビティを企画・運営している。

佐賀が秘めるアウトドア体験の大きなポテンシャル

—『たいようアウトドア』では年間を通してさまざまなアクティビティを企画・運営されていますね。

夏はSUP(※1)などマリンアクティビティをメインにしています。春、秋はサイクリングや子どもたち向けの防災・減災キャンプをやっています。そのほか、川下りやラフティング(※2)など、川をフィールドにしたアクティビティも行っています。
※1…Stand Up Paddleboard(スタンドアップパドルボード)」の略称。ボードの上に立ち、パドルを漕いで水面を進むアクティビティ
※2…6〜8人乗りのインフレータブル式のゴムボートを使用し川下りをするレジャースポーツ

—2015年に唐津にUターンする前は国内外でアウトドアガイドやラフティング選手をされていたんですよね。


北海道の大学を卒業した後、ひょんなことから四国の吉野川などでガイドとして働き始めました。その後は、オーストラリアでガイドをしながらラフティングチームに所属したり、国内のプロチームで優勝を経験したりとラフティング選手としても活動していました。
プロチームを退団した後は、アウトドアガイドをするにあたってどこを拠点にするか迷っていました。当時住んでいた関東や川が有名な四国なども魅力的でしたが、佐賀にUターンすることを決めました。九州全体としてアウトドア文化、特に海のアクティビティはあまり盛んではありませんが、だからこそブルーオーシャンだと思いました。

離島・高島でのSUP体験時、子どもたちに水難事故について説明する古川さん。

—アウトドア視点で唐津の自然の魅力を教えてください。

魅力はたくさんありますよ!北部九州は玄界灘に面している海が多いので、風が吹いて海が荒れると遊ぶことができません。でも、唐津はいろは島や伊万里湾など内湾のスポットがいくつかあって、外から波が入ってこないから海が穏やかなんですよね。だから安全に海で遊ぶことができます。
それから海や山の近くに温泉があるのも良い。アウトドアで汗をかいたり、体が汚れたりするから温泉とアウトドアは相性が良いんです。

伊万里湾に大小48ほどの島々が浮かぶいろは島。写真提供:佐賀県観光連盟

名護屋城跡や唐津城など歴史を感じられるスポットもたくさんあります。『たいようアウトドア』ではサイクリングもやっていますが、歴史好きの方は名護屋城跡の陣屋巡りは結構楽しんでくれますね。離島との距離の近さもいいですね。

高島に向かう船上からの唐津城。

—アウトドアアクティビティの客層の年齢や地域などはいかがですか。

福岡が5割、佐賀が2割、残りの2〜3割が関東や関西など九州以外からのお客さんになります。今日みたいに子ども向けの体験もありますが、日ごろはファミリー層の参加が多いですね。一年でだいたい1,000人〜1,500人ぐらいの方と接していると思います。

SUP体験を楽しむ子どもたち。古川さんは安全確認をしながら子どもたちを見守ったり、アドバイスを送ったりしていた。

子どもたちよ、ワイルドを取り戻そう

—取材時のSUP体験もそうでしたが、「子どもたちが安全に自然を楽しむこと」と「環境保全」をアウトドアアクティビティと組み合わせているのが『たいようアウトドア』の特色と感じます。

そうですね。創業時に『たいようアウトドア』らしさを考えた時からその2つは大切にしています。アクティビティを考える時もわいわい遊んで終わりではなく、お客さんが体験を通して得られるものがあるかを意識していますね。

たとえば、海で遊んでいて「この雲の流れだったら雨が降りそうだな」とか「風が強くなってきそうだな」といった感覚や知恵。それは人が本来、さまざまな経験をする中で培ってきたものだと思うのですが今はテクノロジーが発達して便利になった分、そういった感覚が失われていると感じます。自然の中で遊んだり、体を動かしたりする中でそういった感覚を取り戻して、研ぎ澄ませていく。体験にはそういう要素を入れたいと思っています。

SUP体験の一コマ

SUP体験でも火を起こしてお湯を沸かしてコーヒーを淹れたり、ホットサンドを作ったりといった体験をしてもらうんですよ。僕はやり方やアドバイスは伝えるけど、手を動かすのはお客さん。だから、「火を起こせないとコーヒー飲めませんよ」って(笑)

—スパルタですね(笑)たしかに、SUP体験の際も水難事故の原因や危険性、基本的な乗り方についてはしっかりと教えつつも、子どもたちが自力でSUPを乗りこなしていたのが印象的でした。

子どもは失敗を恐れないですよね。ボードから落ちたり、思うように進まなかったりしても、楽しみながらどんどんチャレンジして身につけていく。
教えても体験しないと本当の意味では身につかない。先にコツやヒントをたくさん知るより、失敗を重ねた末に「こうしたらいいんだ」と自力で成功にたどりつけるのが大事。だから、なるべく教えすぎないようにしています。

体験を始めて数十分でSUPを乗りこなす子どもたち

—子どもがアウトドアアクティビティを体験することで得られるものはなんでしょうか。

自然の中で遊ぶと、ヒヤッとしたり、ドキッとしたり、ときにはけがをすることもあります。でも、そういう経験をすることでメンタルは強くなっていくと思うんですよ。体を鍛えるのも大切だけどやはり心も鍛えておかないとバランスが悪いんじゃないかな。
防災・減災キャンプ体験では、火おこしやロープの結び方、竹筒でごはんを炊く方法を教えます。災害にあった時に、そういうことを知っているかどうかで心の持ちようは変わってくるはずです。
今は災害も多いし、食糧難が起きる可能性もあります。だから、非常事態が起きた時に諦めるのではなく「自分たちでできることをやる」マインドはとても大切になってくると思います。たとえば、お米がお金で買えないなら自分たちが食べる分は自分たちで作る、とか。そういう自らの生活を拓いていくのに必要な知恵や感覚、体の使い方もアクティビティを通じて学べることです。

アウトドアガイドやラフティング選手として30年近く自然と向き合ってきた古川さん。その言葉には説得力がある。

—自分の身一つで生きていく力やマインドを培うということですね。子どもたちに向けた体験を多く開いていますが子どもたちと接する時に心がけていることはありますか。

先生っぽくすると壁ができると思うので、ラフにいろいろ話せるぐらいの距離感を意識しています。前の年にも参加してくれた子が「陽ちゃん!」「師匠!」と声をかけてくれたり、体験で教えたことを家族でキャンプに行った時に実践したよ、友だちに教えてあげたよ、と話してくれたりするのはやはり嬉しいですね。
最初はおとなしかった子が自然の中でどんどん自分を解放して元気になっていくのを目にしたり、一度アクティビティを体験したことで自信を持って次のことにチャレンジしたり。そういう姿を見るとやって良かったなと思います。

SUP体験後、子どもたちはみんなイキイキした表情をしていた。

「開拓していく楽しみ」を感じる佐賀観光の可能性

—今年でUターンして10年。思い描いたことを着実に実現している印象を受けますが、活動を続けていくモチベーションはなんですか。

自分が楽しくないと続けていくのは厳しいかなと思います。自分がやりたいことをやっていてもしんどい部分はあるし、仕事だからお金のことを考えないといけない時もある。だからこそ、周りから「遊んでいるだけじゃん」って言われるぐらい楽しめていることが大事じゃないですか。
遊びながら学べたり、遊びが仕事になったり、そういう仕事や働き方で生きやすくなる人も社会にはいるはず。だから、こういうスタイルがあってもいいんじゃない?ともっと発信していきたいですね。

子どもたちにちょうど良い距離感で寄り添う古川さん。

—九州はアウトドアのブルーオーシャンだと考えてUターンされましたが、この10年で佐賀のアウトドア文化に変化はありましたか?

唐津の海に関しては、こんな景色が見られるんだ、こんな遊びができるんだ、というポテンシャルがSUPを通して知られるようにはなってきたと思います。
仕事前に海でちょっとSUPをやってから働きにいく、といった活動をしている団体もできましたし、ライフスタイルの面で提案できるところまでは来ているのではないかなと。
朝にSUPするのはいいですよ。たとえば、西の浜に鳥島という小さな島があってそこに弁天さんが祀ってあるんですね。日の出の時間に行くとちょうど鳥居の向こうから朝日が昇ってきてとても神秘的なんです。夕方の時間にSUPするとまた違った光景が見られますし、時間帯によっていろんな景色が生まれるのが唐津の海の良いところですね。

—今後やりたいこと、計画していることなどを教えてください。

関東や関西から来たお客さんに「佐賀県ってめっちゃいいところがたくさんあるんですね」「2〜3日では回りきれないのでまた来ます」とよく言われるんです。

太良町の多良岳山頂からの景色

だから、ノーマークだったけど行ったら楽しかったと思ってもらえる体験を提供していきたいですね。誰でも知っているメジャーな場所や遊びというよりは、僕しか知らないようなスポットでその季節にしかできない遊びを提供していきたい。
唐津はもちろん、太良の方にはすてきな山やおいしい食べ物がたくさんあるし、市内だと多布施川があって見所がたくさんある。そういう魅力をもっと知ってもらえるように活動していきたいです。

佐賀市内を流れる多布施川

この10年で、アウトドアの仕事に興味があるから教えてほしいという地元の方や、別の地域でガイド経験を積んで佐賀に帰ってきた人たちともつながりができました。そういう人たちを増やして、アウトドアクラブを作ろうと思っています。
月1ぐらいで楽しみたい人たちが集まって、多布施川で川下りしたり、通年でいろいろやったりして、人がどんどん増えていく。それが自然に観光のコンテンツになるといいなと思います。

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