▼この記事でわかること
・「聞き書き」の仕事に惹かれた理由
・離島暮らしのエピソード
・七つの島の取材で印象に残ったこと
・これからのキャリアについて
・アルバムお渡し会レポート
長谷川 晶規さん・長塩 千夏さん
地域おこし協力隊、七つの島の聞き書きすと
2022年に地域おこし協力隊として小川島に赴任。唐津の七つの島を巡り、島民に話を聞きながら各島の歴史や暮らしをまとめた「七つの島の聞き書きアルバム」を3年かけて制作。アルバムは2025年春に完成した。
https://sml-saga.com/project/prj10-front/
長谷川さん&長塩さんインタビュー
島で暮らし、島の人と仲良くなり、島民から聞いた話から大切な島のお祭り、文化、料理などを記録に残し受け継ぐための「七つの島の聞き書きアルバム」を作る。
これが、長谷川さんと長塩さんが「七つの島の聞き書きすと」(地域おこし協力隊)として赴任する際のミッションでした。
広島の大崎下島で訪問看護の仕事をしていた大阪出身の長谷川さんと、関東で美術大学教員や出版社スタッフとして働いていた長崎・佐世保出身の長塩さん。出身地も経験してきた仕事も異なる二人に「七つの島の聞き書きすと」の求人に惹かれた理由を伺いました。

「マイナーな離島に住んでみたかったんです。以前住んでいた島は本土と橋でつながっていたけれど、唐津・七つの島(※)は船でしか行き来できないのがおもしろいなと。訪問看護の仕事をしている時に高齢の方の昔話をよく聞いていたので、聞き書きすとも一緒だなと思って挑戦してみることにしました。」(長谷川さん)
「元々、個人的な歴史が好きなんです。歴史の勉強というよりは個人史に興味があって、それを聞き書きして本にまとめる仕事はすごくおもしろそうだなと思って応募しました。」(長塩さん)
※…唐津の海に浮かぶ七つの離島。高島、神集島、加唐島、向島、松島、馬渡島、小川島。どの島も本土との移動手段は船のみ。

2022年6月に小川島にやってきた二人。小川島を拠点に生活しながら七つの島を巡り、3年間で100人以上の島民の言葉に耳を傾けてきました。話を聞く相手は、聞き書きを進めていくうちに「このこと(テーマ)ならあの人に聞いたら」と数珠つなぎに決まっていったそうです。
実際に聞き書きして感じた楽しさは。
「個人の写真アルバムを見せてもらうのって相当な身内じゃないとできないことだと思うんですけど、この仕事だと出会って数秒しか経っていないおばあちゃんが家に招いてアルバムを見せてくれる。個人のアルバムを見ること自体もおもしろいし、不思議な仕事だなと思いました。」(長塩さん)
「ちょっとだけ聞いたネタが半年後に別の人から聞いた話とつながっていた、ということが時々あって印象的でしたね。それから、話に出てきた当時の料理を実際に作ってもらって食べた時。加唐島に「お巡(めぐ)りさん」という島中を練り歩く行事があるんですけど、元々は“ふつだご”というよもぎ団子を食べるのが通例だったそうです。作れる人が少なくなっていたんですが、赴任二年目に取材しにいったらそれが出てきた。すごい良い経験だなと楽しんでいました。」(長谷川さん)


島の人の記憶に残る文化や料理を記録するのもミッションの一つ。そのため、祇園祭などの行事を取材に行ったり、島の料理を島民と一緒に作ったりもした二人。
その様子は、月に1回島内限定で配布していた「ききかき新聞」に載せて発信。七つの島は島同士の交流があまりないため、お互いの島を知る機会にもなったそうです。


また、長谷川さんはこの仕事を通じて記録の大切さを感じたといいます。
「島に何があるのか、かつて何があったのかを知るのには聞き書きだけでは限界があります。そこで、個人の家にあった写真や青年団の機関紙、PTAが発行していた冊子などを貸していただいて、それを持ち歩いて聞き書きに向かっていました。
そういうものを見せると島民の方の当時の記憶が蘇ってたくさん話が聞けるんですよね。漠然と「昔の話を聞かせてください」と言ってもなかなか出てこないけど、写真や記録があると「この時はこうだった」となる。行事や風習は今はやらなくなってしまったものもあるからそういった意味でも記録があるのはとても大事なんだなと。作って後の時代に残していく大切さを感じました。」(長谷川さん)


赴任一年目の終わりから、今回制作したアルバムの前身となる各島のアルバムを制作。それを経て、二人の聞き書きの姿勢にも変化が生まれたといいます。
「最初に作ったアルバムは情報誌寄りだったんです。たとえば、捕鯨の話を聞いたら、自分たちの中で咀嚼して、調べて、わかりやすい言葉に変えていました。だから、島の人たちから聞いているけどテキスト自体は『情報』になっていた。
読んでくれた人が「島の人たちの言葉を整理した方がいいんじゃないの」とアドバイスをくれたのを受けて、完全版では本人たちの言葉をほぼそのまま載せています。」(長谷川さん)

「一年目は、聞き書きアルバムを作るというミッションがまだ自分たちの中で漠然としていて、本を作るための情報を集めないと、という気持ちで島の人と接していた部分があると思います。でも、島で暮らして島の人たちとだんだん仲良くなっていくうちに、対「人」として話すようになった。聞き書きの本質に気づいて、結果的にこういう本になりました。」(長塩さん)

取材では、島暮らしの思い出話も。
「島は人との距離が近いです。住んでいた家の窓がノックもなく開いて、そのままアジやイカをくれるのはしょっちゅうです。都会から移住してきたのでそのダイレクトさにはじめは驚いていました。」(長塩さん)
「僕は島で結婚して子どもが生まれたんです。かつて島では長男が生まれた時に大凧を作ってお盆の最終日に揚げて先祖に報告する風習があったんですけど、最近はほぼ作られなくなっていたんですね。それを僕の子どもが生まれた時に島の人が作ってくれました。大凧のことは聞き書きで知って写真も見ていたんですけど、これが話に聞くやつか…となりました。」(長谷川さん)

この春で任期を終え、島を離れる二人。これからの活動について伺いました。
「仕事はもちろんですが、島に来て家族が増えたこともあり、濃厚な3年間でした。いろんなことを楽しく勉強させてもらって、これからのことを考える機会にもなりました。
記録に残すことの大切さを学んだ3年間だったので、自分の作ったものを気軽にまとめる場所を作りたいなと思っています。個人書店をやりつつ、制作を並行していきたいです。」(長谷川さん)
「3年間は初めてのことばかりで学びが多かったです。元々イラストやデザインの仕事をしていたので、今後もそういう仕事をしていきます。小川島には友だちがたくさんできたので第二のふるさととしてこれからも遊びに行きたいなと思っています。」(長塩さん)

聞き書きアルバムお渡し会@小川島レポート
2025年3月5日、小川島憩いの家で行われた「七つの島の聞き書きアルバム」のお渡し会。ここからは写真とともに当日の様子をお伝えします。

アルバムを受け取りに来た島の方たち。「離れて暮らす子どもたちが楽しみにしとる」という声も聞こえてきました。

参加者には大阪出身の長谷川さんが作るとてもおいしいたこ焼きが振る舞われました。

高齢の方たちにとって聞き書きアルバムは、懐かしい写真やエピソードがたくさん。写真に写る知り合いの姿に喜ぶ方も。

島民の方たちと談笑する長谷川さんと長塩さん。お渡し会は終始和やかで楽しい空気が流れていました。




長谷川さんと長塩さんが撮影した、島での行事やなにげない日常の写真をスライドショーで上映。

「記録を残してほしいという思いがあったのでこういう形で実現して嬉しい」「写真も書いてある出来事も懐かしい。昔を思い出す」というコメントも参加者から上がったお渡し会。
「七つの島の聞き書きアルバム」は島の人たちにとって宝物になったようです。
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これまでの二人の活動についての記事はこちら
https://sml-saga.com/project/prj10-front/