「無の国」という佐賀。それがいい。私の地域はここにあった。
- 2022.03.31
- written by 山本 卓

「あなたの地域を描いてください」
佐賀県に移住して10日後、佐賀県内で活動している「地域おこし協力隊」の研修会で課せられた課題でした。当時の私は、移住してきたばかりで、その「地域」という言葉がよくわかりませんでした。
「自分の地域か?」と自分なりに書いた「地域の絵」が、これです。

住んでいたシェアハウスから半径約5キロ圏内が自分の地域でした。知り合いもいない。この先どうなるのだろうと不安で押しつぶされそうになっていました。しかし、そんな私が2年半の佐賀県地域おこし協力隊(地域の編集者)として活動を終えようとしています。疾風のごとく駆け抜けた結果……。「佐賀に来てよかった」と笑っています。佐賀県地域おこし協力隊(地域の編集者)として書かせてもらう最後のざわもえは、「自分の地域について」の話です。
山のたからを発信する、地域の編集者が感じた「たから」とは?

佐賀100の記事を1本書くのに、1~2か月ほど時間がかかりました。それは、一回の取材では終わらず、何日も足を運びお話を聞く。さらに取材先のお手伝いをしながら、仕事体験させてもらうからです。佐賀100の良さって、「超密着型」なところだと思います。数時間にも及ぶ取材の中からひとつひとつの言葉を紡ぎながら、記事を編む。だから他のWEBサイトより文章のボリュームがあり、読み応えがあります。
佐賀100の編集者の仕事って、その人の「山で暮らす人の歴史」を伝えることだと感じました。

歴史を知ることは、未来を考えることに繋がる。私も取材を通し学ぶことがたくさんありました。山の魅力を感じました。魅力って観光資源や食、風景や、もしくは観光名所などたくさんあると思います。だけど、それは日本全国どの地域も同じこと。しかし、違うことといえば「住んでいるひと」です。これまで取材してきた50名ほどの方々はとても魅力的でした。山の「たから」とは、「ひと」なんだと感じました。
山の暮らしは、スローライフではない! ハードライフだ?!

田舎のイメージって、のんびり・空気がうまい・食べ物がおいしい・人の心が温かいなどが思い浮かぶと思いますが、一つだけ違います。
それは「のんびり」です。
実際山で暮らしてみると、めちゃくちゃ忙しいかったです。
何故かというと、日々の仕事をこなしながら、区役などを行わないといけない。(地域によりますが……。) 特に夏場なんて、ほとんど休みが取れません。
農業をやっていると、もっと忙しくなります。季節や天候によってスケジュールを決まるため、自分の予定を優先することが出来ませんした。「もう3月上旬だ! 急いでジャガイモ植えなくちゃ」という感じで予定が次々と埋まっていくのです。
私も半農半Xを目指し「すぐるん農園」を始めましたが、めちゃくちゃ大変でした。毎日毎日、畑に出ては土を作り、種を蒔き、脇芽を摘み、ハウスを建て、草を刈る。収穫を終えると、もう次の季節が来て、土を作り、そしてまた、種を蒔く。
その他にも、季節ごとの集落行事や、地域を守ってくれている神社や寺の掃除もたくさんあります。だから自分の生活以外の時間がたくさん必要となりました。
スローライフなんてどこへやら。山暮らしは、人間と自然の追いかけっこしているようなハードライフした。

ただ、不思議なことに、時間がなくて忙しいのにもかかわらず、心は忙しく感じませんでした。「忙しい」とは、心に亡うと書きます。しかし、山暮らしは心を蘇らせてくれたんです。毎日、新しいことの発見や、経験できなかった体験など刺激的な日々が、そこにはあったからです。

「毎日、飽きることがない」
スローライフを求めている方は、やってみてください! でも、いろんなことに興味が出てきてしまうので、絶対にハードライフになりますよ。(笑)
地域活性化は、笑顔の円を広げる活動?!

佐賀県地域おこし協力隊(地域の編集者)として活動してきた2年半。それも卒業となります。「この後は何をするの?」と、よく聞かれます。
この活動期間の中に、映像制作会社「合同会社Light gear」を設立しましたし、地域活性化のために、コワーキングスペース「音無てらす」を山の中に建てました。キャンプ場も作りました。ラジオのパーソナリティーもやりました。起業家としてスタートを切りました。

やることはまだまだあります。私自身「これから何をするんだろう?」と思いますが、 多分面白そうなことがあれば、いろいろ手を出すんでしょうね。(笑)

地域おこし協力隊の活動期間を振り返ってみると、いっぱい笑って、いっぱい苦しんで、いっぱい行動して「自分と向き合い。たくさんのたからと出会う」期間でした。それに活動地域だと思っていた三瀬、富士、七山、厳木、脊振、松梅を飛び出し、佐賀県全体に活動の幅が増えました。

「地域」とは何か?「おこし」とは何か?
その答えを探す旅でもありました。地域をおこす=地域活性化と、よくいわれます。「行政レベルで物事を動かさないと地域活性化できないんじゃないか」と思う方も多いのではないでしょうか。 でも、そんなことはない。だって、みんなそれぞれ地域って違うんですから。
地域の概念って、「場所」ではなく「ひと」なんだと思います。「この人を笑顔にしたい」と思ったら、まずそれが、あなたの地域です。
半径5キロメートルの円の中にいる人を「笑顔にしたい」と行動すると、笑顔の連鎖が起こる。徐々に笑顔が増えてくると、いつの間にか佐賀県全体が笑顔になり、九州、日本全体が笑顔になる。地域おこし協力隊は、そんな笑顔を増やす活動であり、地域活性化とは笑顔の円を広げる活動であると思いました。
佐賀県を一言で表すなら「無の国」。その意味とは?

佐賀を一言で表すならどんな言葉がしっくりくるのかを考えてみました。熊本県が「火の国」と呼ばれるなら、佐賀県は「無の国」です。
佐賀県の言い回しで「ないない」という言葉があります。実は「ない」という言い回しには「イエス。ある」という意味があるそうです。例えば、商店へ行き「おばちゃんジュースちょうだい」というと「ジュースないない」と答えが返ってくる。しかし、おばちゃんが奥のショーケースに行き、戻ってくると手にはジュースが握られていることがあります。例えるなら「勉強してないよ」と言いながら、しっかり点数を取る学生さんのようです。
そうなんです! 昔から佐賀県は謙虚だったんです。
佐賀県の方々に「佐賀のいいところはどこですか?」と質問すると必ず「ない」と答えます。それを聞いて鵜呑みにしてはいけません! 本心は「佐賀には、いいところがある」と言いたいんだと思います。(笑)
これまで2年半の間活動をしてきて、私は声を大にして言いたい。佐賀県は「なにも無い」なんて嘘です! いろんなことが有りすぎて大変でした。無いと謙虚に思うからこそ、そこに声が生まれ、モノが生まれ、チャレンジが生まれる。そして、たくさんの笑顔が生まれていく。
無から有を生み出す天才がたくさんいるのが、ここ佐賀県なのだと思います。
最後に、私からのひとつ質問です。
「佐賀ってどんなイメージってありますか?」
今はまだ、多くの方が「何もない」と言うと思います。
……ね。今「ない」って言ったでしょ。それでいいんです!
これまで、ありがとうございました。
最後までこの記事を読んでくださり、本当にありがとうございました。これにて、佐賀県地域おこし協力隊(地域の編集者) 山本卓の活動は終わります。みなさんと歩んだこの期間は、かけがえのないものになりました。なにか悩んだり、落ち込んだり、苦しいことがあったら、この『佐賀のお山の100のしごと』のWebサイトを見返してみてください。そこにはたくさんの笑顔があります。そして未来があります。眩しいほどの「たから」がたくさんあります。それは、必ず暗闇から抜け出してくれる一筋の光となり、あなたを必ず笑顔にしてくれます。そして、皆さんもいつか佐賀に遊びに来てください。あなたにとっての「たから」がきっと見つかるはずです。私は見つかりましたよ。
「たから=笑顔」
では、また会う日まで。


-
<取材記者>
山本 卓
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
-
<取材記者>
山本 卓「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身。10代のころから役者を志す。夢を叶えてCMや大河ドラマをはじめ映画や舞台で活動。劇団「ブラックロック」の主宰を経て、海外公演を自主企画で成功させる。その後、キー局情報番組のディレクターとして番組制作に携わる。夢は日本を動かした100人になること! 地域の人に密着した動画作成や、人の顔が見えるマップを作りたくて移住を決意

