「ひとりひとりは微力でも、無力ではない」古湯・熊の川温泉郷を愛し、地元と訪れるひとを繋ぐ架け橋 No.005 村岡夏子さん
- 2020.03.06
- written by 鵜飼 優子

佐賀県北部の富士町にある古湯・熊の川温泉郷。佐賀市内から20㎞ほどの立地。
ぬる湯とよばれ、美肌に良いと言われるぬるぬるした泉質とぬるい40度以下のお湯が特徴です。
古湯・熊の川温泉郷をひとつにまとめる組織が富士町観光案内所にある「古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟」です。2017年に英龍温泉の社長でもある山口澄雄さんが中心となって設立し、古湯・熊の川温泉郷を盛り上げています。

今回は、古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟で働く、村岡夏子さんにお話を伺いました。
地元への思い。
古湯・熊の川温泉郷への思い。
子育てをしながらの働き方などをお聞きしました!
郵便局員として地元を走り回って培ったつながりが今に続いている!?

本日は、よろしくお願いいたします。さっそくですが、夏子さんは地元富士町の出身なのですよね?
はい。わたしは、地元の富士町の中でも小副川という地区の出身です。小副川は古湯温泉から佐賀市街地方面にすこし山を下ったあたりの山あいの地域です。小学校、中学校、高校までは小副川の実家から通っていました。大学で熊本に出て、そのあと富士町に帰ってきました。
大学卒業後、富士町へ帰って来られたのですね。
最初は、熊本で就職しようと思っていたんです。だけど、やっぱり佐賀県に帰りたいと思って。熊本県も佐賀県もどちらもすきだけど、熊本県には、ご縁があれば行く機会があるだろうと思い、ふるさとの富士町に帰ってくることにしました。
富士町に帰ってからは、どんなお仕事をされていたのですか?
最初、とくに富士町で何をするかを決めていなかったんです。それで帰ってきたはいいけど、仕事どうしようとなっていました(笑)。そうしたらたまたま、近所の方が、「郵便局のアルバイトに来ない?」って声をかけてくださり、1年ほど郵便局のアルバイトと塾の講師をしていました。
なるほど。郵便局では、どんなお仕事をされていたのですか?
アルバイトとして、郵便局に勤めていた時は、基本的に内務の勤務をしていました。そのあと、郵便局の就職試験を受けました。
ところが、内務の希望だったのですが、外務で試験に受かったんです。外務っていうのは、あの外を走っている赤バイクのお仕事です。
寒い日も暑い日も赤バイクで町中を隅から隅まで回るので、外務の仕事は女性にはなかなか大変で、当時は、佐賀県では女性の外務は3人くらいしかいなかったくらい……。試験は受かったけれど、このまま郵便局で働いていけるのかと悩んでいたときに、当時の地元の郵便局の局長さんが声をかけてくださり、後々制度を使って、内勤に移ることも可能と知り、「しばらく頑張ってみるか!」 と思い切って就職しました。
結局、しばらくと思っていたのが12、3年もいることになりましたが……(笑)。

しばらくと思っていたのが12、3年も! 赤バイクに乗って富士町中を回わるお仕事はどうでしたか?
そうですね。実際には、こども3人分の育休も取ったので、働いていた期間は、12年の半分くらいですね。
産休、育休、復帰を繰り返しながら、赤バイクで富士町を隅から隅まで全部回って、それで富士町の町全体をはじめて知ったんです。「こんな山奥まで家があるんだ!」とか「この家にはこの人が住んでいるんだ!」とか。それまで、ずっと住んでいたのに、富士町のことを知らなかったんだと気づきました。生まれ育っただけでは、わからないことがあるんですね。
富士町を赤バイクで走る、それは誰よりも富士町に詳しいですね。
郵便局での仕事では、最初は、集配で各家などをまわって、そのあとは、営業もしていました。郵便局の仕事をしていたおかげで、富士町の人と話すようになり、住んでいるだけでは出会えなかった富士町の方々のお名前とお顔が一致して、つながりを持てるようになりました。
そして、このつながりが思いがけず、今の仕事に役立っています。
―富士町を知りつくしているからこそできる観光案内。すごい、なんて適任なんでしょう!!
仕事の内容は幅広い! 観光案内からふるさと納税の返礼品の準備まで……!

郵便局を退職された後に、古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟へ来られたのですね。
そうですね。郵便局での仕事を一生懸命務めようとすればするほど、家庭のことがおろそかになってしまったんです。
それで、このままだと子供と一緒にいられる貴重な時間が過ぎてしまうと思い、郵便局の仕事に一区切りをつけました。
それからは、しばらくペースを落として、地域の方のお仕事のお手伝いなどをしていました。そして、ご縁をいただいて古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟でお仕事をすることになりました。

普段は観光案内所でお仕事をされているのですよね?
はい。基本的には富士町観光案内所にいつもいます。
観光案内所は水曜日がお休みで、朝10時から夕方5時まで開いています。
観光で来られた方の対応やメディアの取材対応、旅館さんとのやり取りやイベントの企画もしています。今は、ふるさと納税の返礼品の準備と3月1日の「はしご酒」のイベントの準備中です。

「はしご酒」はどんなイベントですか?
はしご酒は、お酒を楽しみながら旅館をはしごする温泉街の街歩きイベントです。1枚のチケットでお酒2杯とお料理1品が楽しめるようになっていて、旅館やお店ごとにこだわりの佐賀のお酒と肴が用意されています。4枚つづりのはしご酒のチケットと入浴券とおちょこ引換券がついています。だいたいいつも14店舗くらい出店しているので、このイベントをきっかけに古湯・熊の川温泉郷を知ったという方もいらっしゃいます。
(※2020年のはしご酒のイベントは、新型コロナウィルス感染症の予防、拡散防止のため残念ながら、中止となりました。)
旅館を回って、美味しいお酒とお料理、そして、お風呂にも入っていただける! 温泉街にぴったりな最高のイベントですね!
はい! 昨年も、たくさんの方に来ていただきました。おちょこを皆さんにお渡しして、旅館をまわってもらうのですが、そのおちょこ入れも手作りしています。今年は、おちょこ入れにスタンプを押して作ろうと思って、張り切っています!

すごい、ひとつひとつ手作りなのですね。
もともと作るのがすきで、来てくれた方に少しでも喜んでもらえるようにと思い、手作りしています。今年も400個くらい作ります。もちろん、1人では大変なので、他の方にもお手伝いはしてもらいますが、オリジナルのおちょこ入れが記念になったら、嬉しいなと思っています。
お仕事の内容は幅広いのですね。
そうですね。土曜日、日曜日も仕事があるので、たまに観光案内所に子どもたちを連れてきたりもしています。
子どもたちも自分たちで、古湯の町を散策したりして楽しんでいますね。町の方も声をかけてくれるので、安心できます。
近所の方に「どこの子ね?」って声かけられたら、お母さんが観光案内所で働いているって言ったら、わかるからねって伝えています。

「ひとりひとりは微力でも、無力ではない」子どもからもらった大切な時間と想い

お母さんの働く姿を子どもたちが間近で見られるというのも素敵な時間ですね。お仕事と家庭の両立は大変ではないですか?
正直、ジレンマがありました。仕事も真剣にやらないといけないし、家庭もあって。自分のキャパオーバーだなと思うことは、日々あります。けど、家庭と仕事のふたつがあることで、切り替えになってよかったと思うこともあります。
家庭に仕事にと、お忙しい中で、好きな時間や、ほっとする時間ありますか?
子どもたちがスポーツする姿を見るのがすごく好きです。今はそれが1番いい時間ですね。高校1年生、中学3年生、小学5年生の子どもがいて、それぞれサッカーやバスケなどのスポーツをしています。今は、1番下の子のバスケがメインです。子どもたちが、がんばっている姿を見るのが1番幸せです。
お子さんとの時間がかけがえのない大切な時間なんですね。
とくに最近そう思うようになりました。赤ちゃんのときは、毎日が必死で全然思わなかったんですけど、子どもたちとの時間っていつまでも続かないんだって。少しずつ手がかからなくなってきているのを感じて、10年もすれば子どもたちはそれぞれの道を進んでいるんだなと思うと、本当に今の時間が大切です。
夏子さんにとっての古湯・熊の川温泉郷とは?

夏子さんにとって古湯・熊の川温泉郷とはどんな場所ですか?
まだまだ、気づいてもらえていない魅力が溢れているところだなと思っています。たとえば、川のせせらぎや、鳥のさえずり、新緑やホタル……。どうやったらみなさんにこの魅力に気づいてもらえるかを工夫するのが、わたしの仕事ですね。
観光客の皆さんはもちろんですが、地元の方にも気づいてもらいたい。地元の方にとっては、この街の魅力は当たり前すぎて、「何にもない」のと同じなんです。私もその一人でした。古湯の魅力に気づき、「私たちっていいところに住んでいるんだ」って思ってもらえたら嬉しいです。

川のせせらぎや鳥のさえずり、こういった環境が当たり前なのですね。
そうですね。川のせせらぎも、5月になれば山の緑が鮮やかになるのも、初夏にはホタルが見れるのも、口にも出さないくらい当たり前だったんです。
けどここで働き始めてから、貴重な環境なんだってわかりました。わざわざお電話で、「ホタルはどこで見れますか? もうすぐホタルの時期ですか?」って尋ねてこられる方がたくさんいらっしゃるんです。わざわざ見にくるお客さんがいるくらい良いところ。素敵なところなんだってお客さんから教わりました。
夏子さん自身も日々魅力を発見されているんですね。
観光でいらっしゃる方と住んでいる方とでは感じ方が違うと思うんです。遊びに来てわかる良さと住んでいてわかる良さ。その両方を兼ねそなえているのが、古湯・熊の川温泉郷だと思います。わざわざ足を運びにくる価値があるところだということを、みんなに知ってもらいたいなと思います。

観光目線と、生活されている方の両方の目線を持たれているって、架け橋となる存在ですね。
娘から教えてもらった言葉なんですけど、「ひとりひとりは、微力でも、無力ではない」って言葉がすごく好きなんです。わたし、自分に自信がないんですよね。だけど何かしら、できることはあるだろうと思っていて。仕事でもそうですし、家庭でもそう思いますね。家庭では、こどもたちってなんてすごいんだろう! わたしなんてって思うんです。だけど、今は、それでもわたしも何かしら役に立てるはずと思っています。
ここの古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟でも。最初は、この仕事は観光を担う大切な仕事過ぎてどうしようって思っていたんです。でも、何かしら少しでも役にたてるはず。無力ではない。できることからやってみようって今は思っています。
仕事も子育ても、日々勉強!

今後の古湯・熊の川温泉郷のイメージはありますか?
そうですね。福岡からも佐賀からもアクセスが良い場所にこんなに自然にも情緒にもあふれた場所があるってもっと知ってほしいです。だけど、その一方で、すごく賑わってほしいというよりも、このしっとり感をたくさんの人に味わってほしいとも思っています。 このしっとりした情緒豊かな空気感が古湯・熊の川温泉郷の魅力の1つだと思っています。
なるほど。古湯・熊の川温泉郷は泉質もとてもいいですよね!
わたしはこの仕事をするまで、実はあんまり古湯・熊の川温泉に入ったことがなかったんです。仕事をするようになって、古湯・熊の川温泉入るようになったんですね。そしたら、肌がすべすべになって。今まで、ぬる湯とか言われても、ピンと来なかったんですけど。本当に「ぬるぬるのすべすべだ!」って驚きました。温度も低めなので長湯もできて、とっても気持ちいい。
佐賀県内にお住まいの方でもまだまだ古湯・熊の川温泉郷を知らない方がたくさんいらっしゃいます。「わざわざ行く価値のある温泉ですよ」 って伝えたいですね。そのために、お手伝いしていきたいです。

夏子さん個人の目標はありますか?
うーん、英語でしょうか? けっこう海外からもお客さまが来られています。今は片言の英語で対応していて、聞かれていることに対してだけ、なんとか答えている状況です。本当は、プラスαの情報をお届したいんです。それができず、もどかしさがあります。色々な方に伝えられる力がほしいです。英語もそうだけど、色んな知識がないといけないなって思います。勉強でしょうね、勉強です! 仕事も子育ても、微力ながら少しずつでも勉強していきたいと思っています。
なるほど! 本日はお忙しいなか、本当にありがとうございました。
移住に関するお問い合わせ・相談はこちらまで。
ー 編集後記 ー
郵便局員を経て、古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟へ。誰よりも、富士町を知る村岡夏子さん。やわらかい雰囲気と笑顔がとっても素敵でした。夏子さんと一緒にいると心地よく、ついつい富士町観光案内所に長居してしまいます。中には、夏子さんに会いに来られるお客様もいるようです……! 古湯・熊の川温泉に訪れた際は、ぜひ夏子さんに会いに行ってみてください。素敵な笑顔で皆さんを迎え、それぞれにあった古湯・熊の川温泉郷の楽しみ方を提供してくださいますよ。


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<お世話になった取材先>
古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟
村岡 夏子さん
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<お世話になった取材先>
古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟村岡 夏子さん
富士町生まれ、富士町育ち。3人のお子さんを育てるお母さんでもあり、古湯・熊の川温泉郷の看板娘。富士町観光案内所にて、お客様に合った温泉や古湯・熊の川温泉の楽しみ方を提案。日々、古湯・熊の川温泉郷の魅力を伝えるための活動をしている。はしご酒のイベントや花火大会の運営も担う。
(一社)古湯・熊の川温泉観光コンベンション連盟
住所:〒840-0501 佐賀県佐賀市富士町大字古湯2665−2
電話番号:0952-51-8126
富士町観光案内所
営業時間:10:00~17:00(定休日:水曜)
駐車場:あり




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<取材記者>
鵜飼 優子
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
鵜飼 優子「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身、ひつじ年。今まで暮らしたことのある地域は、北軽井沢、阿武、萩、佐伯、そして個人的にもご縁を感じている佐賀のお山にやってきました。幼稚園教諭やドーナツ屋さんなど様々なことにチャレンジしています。将来は、こどもとお母さん、家族が集える場所を作ることが目標。佐賀のお山の暮らしを楽しみながら情報発信しています。

