パンもうつわも人との人生もコネル パンと器のコネル No.044 今村茂樹さん、志麻さん
- 2022.03.25
- written by 鵜飼 優子

脊振の中でも家が立ち並ぶ中心地から山へぐんぐん登っていくと、白木(しらき)という集落があります。その集落に2年ほど前に移り住んできた今村一家は、空き家を改修し、現在、自宅兼工房にして、「パンと器のコネル」というお店を営まれています。
パンを作る志麻さんと器を作る茂樹さん、そして3人のお子さんの5人家族です。
パンと器は、自宅兼工房での「古民家オープン」(コネルさんの販売日の呼び名)のほか、佐賀市内のお店や不定期で出店するイベント、ネットショップBASEでの販売をされています。
コネルさんは、どんな思いでパンをこね、器をこね、地域と関わり、自然とともに山奥で暮らされているのでしょうか。志麻さん、茂樹さんにお話をうかがいました。
自分が食べて美味しいと感じるパンを届けたい

本日はよろしくお願いします。先日初めてこの古民家のお店に来た時、玄関のドアを開けるとたくさんのパンが出迎えてくれてびっくりしました。お客さんがパンを買うだけでなく、おしゃべりして、くつろいでいらっしゃるのも印象的でした。コネルさんのパンは種類が多いですね。
志麻さん:そうですね。種類は徐々に増えています。私自身がたくさんの種類の中から選ぶのが好きなので、現在季節限定を含め40種類ほどパンを作っています。1番始めに作ったのは、豆パンでした。
豆パンは、見た目がまんまるで可愛くて、豆の味がしっかりしていて美味しかったです。お店を始めるにあたって悩まれたことってありますか?
志麻さん:パンの値段の設定ですかね。当初、子どもがおやつとして気軽に買える値段にしていました。だけど、原料が値上がりしたり、どうしても自分の仕事量と売り上げがつり合わなくなったりして、値段を上げる決断をしました。

値段をあげるという決断、なかなか難しかったのではないでしょうか?
志麻さん:お客さんはどう思うだろうと最初は迷いがありました。だけど、こちらの事情を理解してくださる方もいて、変わらずに足しげくお店まで通ってくださり、ありがたいことです。
コネルさんのパンのこだわりは、なんでしょうか?
志麻さん:自家製天然酵母を使っています。惣菜パンなどの具も手作りしていて、ひとつずつ丁寧においしいものを届けたいと思って作っています。

自宅兼工房での「古民家オープン」のパン販売日には、脊振の仲間の方が手伝いにいらっしゃっていて、和気あいあいとした雰囲気でしたね。
志麻さん:そうなんです。パン作りを手伝ってもらったり、パンの具材に使うほうれん草を農家さんから届けてもらったりしています。届けに来てくれた農家さんが、気付いたら接客してくれていることもあって、地域の皆さんにも助けてもらいながら、お店をやっています。

古民家オープンの日はわたしも楽しく心地よくて、つい長居しちゃいました。
志麻さん:ありがとうございます。私もお客さんとけっこう話しますね。皆さんが、思い思いの時間を過ごされていて、それが嬉しいです。せっかく山のお店まで来ていただいているので、パンを食べるだけでなく、この環境も味わってゆっくりしていただきたいと思っています。
古民家オープンの日以外にはどちらでパンを買えるのですか?
佐賀市内の「pocoa a bocco」さんへ木曜日に卸していますし、イベントに出店したりもします。
あとはオンラインショップBASE(パンと器の コネル)でも販売しております。
楽しさとぬくもりが伝わる器

今度は茂樹さんに器のお話をお聞きしたいです。器や創作活動を始めるきっかけは何だったのですか?
茂樹さん:子供のころからとにかく工作が大好きで、九州産業大学芸術学部に入って学びました。そこから山口県萩市の窯元さんのところで修行しました。
そのあとは看板屋さんに勤めながら、創作活動をしていたのですが、ある日事故で足を怪我してしまい、リハビリが必要になりました。そこからリハビリに興味が出て、学校に通い勉強しました。現在でも、病院で作業療法士として勤務しながら、休みの日に器をこねたり、パンをこねています。
器のほかに作業療法士としてもお仕事されているのですね。最近は器よりパンをたくさんこねていると聞きました。
茂樹さん:そうですね。(笑)パンをこねている時間のほうが長かったです。あとは、この家の改装に時間を使っていましたね。これからは、器に力を入れていきたいと思っています。
さがんコーヒーフェスタに出店されるんですよね?
茂樹さん:そうなんです。パンはもちろんですが、コーヒーフェスタなので、コーヒーカップを沢山作っています。これを持って、いろいろなコーヒーを味わってほしいなと思っています。

素敵ですね。わたしは家にどんぶりがないのでどんぶりがほしいです。(笑)ねりで作られているのですね。どちらも素敵です。
茂樹さん:そうです。ろくろを使って作ることもありますし、手びねりでも作品を作ります。器を持った時の感覚がそれによって違うんです。

ほんとだ! 確かに触り心地というか持った感じが違いますね。
茂樹さん:手びねりのほうが温かみがあるでしょう。僕は、土にこだわるより形を作ることが楽しいので、手びねりが好きで、その楽しい気持ちが器にものっているんじゃないかと思っています。

茂樹さんが作られているときの楽しい気持ちとぬくもりが器から感じられます。いいなあ、手びねり。わたしもチャレンジしたいです。
茂樹さん:ぜひ体験してほしいです。ただこの工房の改装はまだこれからなので、寒いんですよね(笑)
住居とパン工房は完成したので、これから器の工房をもっと改良していきたいですね。

花屋で出会った2人。そこからさがのお山暮らしへ

お二人の出会いは花屋さんだったそうですね。
志麻さん:そうなんです。私は当時、花を卸す会社に勤めていて、その会社が経営している花屋で仕事をしていたんです。そこに茂樹さんがやってきて、接客したのが始まりでした。
茂樹さんはその時どうして花屋さんに行かれたのですか?
茂樹さん:実は友達との待ち合わせ場所が志麻さんの働いている花屋さんだったんです。その人がちょうど二人の共通の友達で。
志麻さんに接客されてどんな印象だったのですか?
茂樹さん:ひとめぼれでしたよね。きれいな人だし、接客も丁寧で。だけど、友達には無理だぞって言われていました。
ひとめぼれって素敵ですね。そこからどうやって発展されたのですか?
茂樹さん:ダメもとで僕から連絡を取りました。返信がきたので僕は何度かお店に通って、実際ふたりで食事に行ったのは、半年くらい経った後でした。
志麻さん:最初はどんな人なんだろうって思ったけど、花屋さんに通ってくれたので仲良くなりましたね。
花屋さんで始まる恋ってなんだかいいですね。神埼市へ来たのはいつごろだったんですか?
志麻さん:約17年前ですね。きっかけは福岡県西方沖地震で、当時春日市に住んでいたんですけど、古い家だったのもあって地震でヒビが入って、どこかに移り住みたいとなり、家探しを始めました。私が通っているお寺の方のご紹介で、脊振の前の家が見つかって移住しました。初めは2~3年でまた別の家を探すと思っていたのですが、子育てしていて気づいたら15年くらい経っていました。
地震がきっかけで神崎市に移り住んで来られたのですね。
脊振村のさらに山奥。佐賀県で一番標高が高い集落である白木(しらき)地区へ。

移住してきて住んでいた脊振の中心地から、山奥へ移られたそうですが、どうやって今の家を見つけたんですか?
志麻さん:温水器が壊れて、それをきっかけに次の住処を探し始めました。そこから現在の家にたどり着くまでも長かったんですけどね。(笑)
茂樹さん:三瀬村も候補に入れて、当時ムラークさんにも移住相談に行ったりしました。家を探し始めて2年くらい経ったころ近所の方づてで、今の家が見つかりました。
志麻さん:わたしがぴんっときて、ここだって!直感に加えて、キウイフルーツの木が植えてあったことで、ここに住むイメージが一気に湧きました。

志麻さんが気に入られたのですね。現在の家にたどり着く前からパンと器のコネルの構想はあったのですか?
茂樹さん:そうですね。脊振の前の家の時から、僕は器を作り窯開きしたり、志麻さんもパンを焼いたりしていました。二人でお店をできたらいいねとは話していました。
もともとお店をするつもりで家探しをされていたんですね。この集落は当時2組しか住まわれていらっしゃらなかったとお聞きしました。
志麻さん:そうなんです。2組で、人数で言うと4人。うちが5人家族だったので、人口が倍以上になったんです!(笑) 皆さんよくしてくださいます。
当初の状態からリノベーションされたんですよね。
茂樹さん:そうですね。子どもたちも一家総出で、改修工事しました。もちろん地元の信頼できる大工さんにも入っていただきました。僕が以前から古民家のリノベーションをしてみたいと思っていたので大工さんと一緒になって、作業しましたね。
すごいですね!!
大工さんは職人気質なので、最初は嫌がられていましたよ。素人なので当たり前ですが。だけど、来る日も来る日も横でやろうと意気込んでいるから、「お、これは本気だな」と感じ取ってくれたみたいです。

茂樹さんの本気が伝わったのですね。
茂樹さん:大工さんの仕事を近くで見せてもらっていたら、ほんと勉強になりました。実際に手伝わせてもらえるところは手伝わせてもらって学ぶことができたので、まだまだやりたいところを自分でできるのが楽しみです。

この家はこれからどんどん進化していくのですね。ここに来るとわたしも幸せをいただいて、ほくほくします。
茂樹さん:みんなを幸せにしたいという思いもあってパンや器をこねているので、それにはまず自分たちが幸せでありたいと思っています。
ワンダーランドのような暮らしをここでさらに楽しみたい

茂樹さんが家族と家でいろんなことをしているほうが楽しいっておっしゃっていたのが印象的でした。
茂樹さん:そうですね。外食やできたものを買って食べるより、家でみんなとわいわい作って食べるのが楽しいんですよね。どこかに行くより家が一番ワンダーランドだと思っています。
家がワンダーランドって最高ですね。わたしも古民家オープンの日に初めて来て、楽しくて気が付いたら3時間くらい経っていました。来られるお客さんもくつろいでおられていて、素敵でした。
志麻さん:一番上の高校1年生の娘はコーヒーを淹れるのが上手で、将来はこの集落の空き家でカフェしたらいいねって話したりしていて。みんなそれぞれがしたいことを、ここでやれたらいいなって思っています。
家族がそれぞれやりたいことをやっていくって楽しいですね。家から次はこの地域がワンダーランドみたいですね。
茂樹さん:そうですね。コネルもこの2年はパン寄りだったけど、今年からはさらに焼き物に力を入れていきたいなって思っています。パンに合う器を作りコラボレーションしながら、やっていきたいと思っています。
これからさらに楽しみが増えますね。コネルさんファミリーの今後をとっても楽しみにしています。
ー 編集後記 ー
コネルさんと初めてお会いしたのが古民家オープンのパンの日でした。取材で訪れたのですが、気づいたらいろんな話をしてしまい、あまりの心地良さに3時間くらい滞在してしまいました。それからは人生相談や移住のことなど話す関係を築け、お世話になっております。何より家族みんなで楽しまれている姿に一緒にいるこちらもわくわくして、幸せをいただいています。お客さんもみんな気づいたら知り合いに感じられる、ということが起こる不思議なパン屋さん。ぜひ佐賀県で一番標高の高い集落にある、パンと器のコネルさんへ行ってみてください。


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<お世話になった取材先>
パンと器のコネル
今村茂樹さん、志麻さん
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<お世話になった取材先>
パンと器のコネル今村茂樹さん、志麻さん
Instagram:https://www.instagram.com/panconeru/
Facebookページ:https://www.facebook.com/panconeru/
ネットショップ BASE:https://panconeru.thebase.in/
今村茂樹さん:パンと器のコネルの器を担当。兵庫県出身。九州産業大学芸術学部を卒業し、山口県萩市の窯元さんで修業を積む。創作活動が好きで、器はもちろん、オブジェや家にある家具なども作る。家族で過ごす家がワンダーランド。手びねりのあたたかみがある器を制作する。
今村志麻さん:パンと器のコネルのパンを担当。福岡県出身。調理師専門学校を卒業。息子さんが2歳のときにパンを焼き始める。現在、季節限定を含め40種類のパンを作る。酵母の研究を日々重ね、たどり着いた天然酵母のパンを焼く。家族との時間を大切に、おいしいを追求する3人のお母さん。




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<取材記者>
鵜飼 優子
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
鵜飼 優子「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身、ひつじ年。今まで暮らしたことのある地域は、北軽井沢、阿武、萩、佐伯、そして個人的にもご縁を感じている佐賀のお山にやってきました。幼稚園教諭やドーナツ屋さんなど様々なことにチャレンジしています。将来は、こどもとお母さん、家族が集える場所を作ることが目標。佐賀のお山の暮らしを楽しみながら情報発信しています。

