地元でできることをまっすぐに。やさしい花を育てる森花園 No028 森眞純さん
- 2021.05.19
- written by 鵜飼 優子

手間暇かけて、愛情たっぷり育った花たち

本日はよろしくお願いします。まずは、花農家さんのお仕事について教えてください。
父の代から花を育てていて、2代目として、現在5種類の花を作っています。年間4万~5万鉢作って、関東から宮崎まで全国の市場に出荷しています。
花が育つまでにどのくらいの期間がかかるんですか?
大体1年くらいかけて育てていきます。市場の職員さんと来年はどの花をどのくらいほしいと決めているので、それに合わせて1年前から育てていきます。
挿し木から育てるベゴニアとアジサイ。種から育てるシクラメンとジュリアン。種からの植物は少しずつポットを大きくしながら育てています。今は、母の日の出荷に向けて作業しています。

1年かけて育てられていくのですね。アジサイといっても花の色や品種の多さにびっくりしました。
そうですね。色の種類は、薄めの色や濃い色ほんとにいろいろあって、時代の流れや地域によっても好まれる色が違って。九州だと赤や青の濃い色が好まれたり、関東ではパステルが好まれたりしますね。

地域によっても違うんですね。佐賀県の品種もあるのですか?
佐賀県で作られたものもありますよ。品種は、「雨のち星」と「可愛花(かわいか)」です。
作ったのは、僕も参加しているアジサイ研究会です。
品種があふれているからこそ自分たちだけの品種を作りたいと、10年ほど前から活動が始まりました。
メンバーは4人で。アジサイを作り始めて、2~3年くらいで僕と同じくらいの年の方と、昔からアジサイを作られている七山の方、大和町の方の4人でしています。

アジサイ研究会があるんですね。どんな風に品種は作られていくんですか?
県の職員さんや技術を持った方とも協力して、数千株から選抜しながら、改良していきます。これから出る品種も決まっていて、順番にお披露目していくことになると思います。
試行錯誤を重ねて出来上がっていく佐賀の新しい品種のアジサイ楽しみですね。
中学3年生で決心した進路

森さん自身、花農家になると決めたのはいつごろだったんですか?
中学3年生のときですね。担任の先生と親との進路面談があって、そのときには、花農家になるって決めてました。地元に残って花を作るってかっこいいなって思って。
中学生で決められていたんですね。そのあとはどんな道のりだったんですか?
高校は、商業高校へ行きました。高校を卒業したあとは、愛知の花農家さんのところへ3年間研修に行きました。
父も花農家で、ベゴニアを作っていたんですが、僕が研修に行く前、「研修でシクラメンを習ってきて、二人でそれぞれいいものを作れば大丈夫」って言葉をかけてもらったのが自分の中でしっくりきて、安心して研修に臨めました。

研修はどんな感じでしたか?
研修先は、全国各地から今まで200人弱の研修生が来ているところでした。初代は早川辰雄さんという方で、「大将」と呼ばれていて日本の園芸業界を盛り上げていったひとりです。
自分が行ったときは2代目に変わられていましたが、その方の下で全国から来た仲間とみんなで共同生活してました。
ハウスの前に寮があって、朝から作業して、昼飯食いに帰って、また作業して、17時に終わって、みんなでサッカーして……
言われている作業をやっていく。学ばないといけないことは自分から聞いて、聞かないと教えてもらえない。座学は一度もなかったですね。

花農家さんでの研修はどうでしたか?
いやー実は最初は2年間の研修のつもりで家を出たんです。だけど、研修先を紹介してくれた方が3年研修していて、お前も3年おるやろって聞かれて、3年いることになりました。
でも3年過ごしてみて、2年と3年は全然違ったなって思いました。
研修が4月から始まって、12月に出荷するシクラメンは、4か月育ったところからスタートになるんですよね。2年間の研修だと1年通してみられるのが1回だけなんですね。だから3年いることで2回、年間通して花の育ちを勉強できたのは大きかったです。
研修から帰ってきてからは、すぐ就農されたのですか?
帰ってきて、父がもともと育てていた花を一緒に育てていく形でスタートしました。21歳のときですね。
シクラメンは、研修先で習ってきて、こっちに帰る前に苗を郵送して、父に苗の面倒みてもらって、帰ってきたと同時にスタートしました。
研修が終わるとともに花農家さんとして1年目がスタートしたのですね。仕事の中で工夫していることはありますか?
そうですね。よく失敗するんですよ。そのたびに誰かのせいにせず、まず自分の中で飲み込んで、どうしたらいいかって原因を探していきます。
小さい失敗だと、荷造りが遅れてトラックを待たせてしまったとか花がしおれてしまったとか。
2年前には大きな失敗もあって、育てていたシクラメンを全部枯らしてしまって。

全部ですか。それは大変でしたね。
その年は、自分の欲がでた年でもあって、強い植物を作ったら病気にならないだろうと思って、薬を使わずに作ってみようとチャレンジしたんです。
野菜なども無農薬で育てられているのがありますもんね。
そうですね、花の場合、最近少しずつ無農薬やオーガニックと聞くようになりました。だから自分も試してみようと。そうしたら見事に病気にかかってしまいました。
その時は、ご飯食べても味がしない。ショックでどんどん痩せていきました。
だけど、周りの花農家さんたちに声をかけてもらって、励ましてもらって立ち直ることができて今があります。
その時から、見て育てて楽しんでもらうためにきれいな状態でお届けするって大事だなと、考えが変わりました。
失敗しながら、工夫して乗り越えてこられたんですね。仕事をしていて、うれしい瞬間ってありますか?
出荷前にばーっときれいに花が咲いたときは嬉しいですね。

―ハウス1面にアジサイが咲いていて、すごくきれいでした。
花の育て方のコツは……

私は花や植物をすぐ枯らしてしまうんですが、育て方のコツってありますか?
そうですね。まずは、育てやすい強い品種からチャレンジするのがいいかなって思います。
まずは、育てる楽しみを味わってほしいので、花屋さんとかで育てやすい品種を聞いて、育ててみてほしいですね。
なるほど。まずは育てやすい品種からチャレンジしてみることですね。日常の中で気を付けることってありますか?
目を配ってあげるって大事ですね。枯れた葉があったら、取ってあげるとか。
植物によって、光が好きな種類や逆に光が苦手な種類やいろいろあるんですけど、もともと外で育つものなので、場所は、玄関やベランダや軒先をおすすめしますね。

光が当たって、風も当たる場所がいいですね。
玄関先や外がいいんですね!
僕も自分が作った花を、家でモニタリングして育てているんですけど、圧倒的に玄関先が長持ちしますね。
うちの商品を作っていくテーマが「長持ち」「丁寧」「上品」なんですよね。
「長持ち」は長持ちする花を作る。
「丁寧」は丁寧に目を配ってあげる、手入れをしてあげる、丁寧にひとつひとつの仕事をする。
「上品」っていうのは、見た目のことなんですけど、ばーんとボリュームがある花じゃなく、
植物から鉢までトータルでかわいい、優しい雰囲気をもったような花が作りたくて。ピンクの鉢にしているのはそういう意味です。ぶれることなくこの3点にこだわって作っています。

皆さんにもお花のある暮らしを楽しんでほしいですね。
森さんたちがこだわって作られているお花、枯らさずに育てたいと思います!
富士町での暮らし

仕事も暮らしもご両親とご一緒なんですよね。家族経営っていかがですか?
そうですね。ずっと一緒なので、メリハリがない部分はあるかもしれないけど、情報共有はしやすいですね。子どもたちの送り迎えも母にお願いしたりして、協力してもらっています。
富士町で生まれ育って、地元に残っている森さん。今後富士町がこうなったらいいなというイメージはありますか?
この富士町を出ていく人も、残る人もいると思うんですけど、残っている人が和気あいあいとしている町がいいですね。移住された方とも仲良くバランスをとって暮らしていきたいですね。
移住してきた方がうちの集落にもいて、集落の仕事を積極的にしてくれて助かってます。
自分の父親の代が繋いでいった行事などもあるんですけど、変えないといけないこともあると思うので、柔軟に対応していけたらいいですね。
移住者の方には来てほしいですか?
そうですね。特に同年代の30代の方とか来てもらえたらうれしいですね。

最後に今後の展望を聞かせてください。
規模を拡大したいですね。今、ハウスが3か所に分かれていて、この山の上のハウスの出荷が終わったら、別のハウスから持ってきて、出荷しての繰り返しなんですよね。なかなか体力がいるので、そこを楽にしていかないと。
なので、効率を上げるために1か所へまとめられたらと思います。
今の仕事は本当に人がいないとできないので、田舎には仕事が無いって思うかもしれないけど、うちには有るので興味があればぜひ来てほしいです。
ー 編集後記 ー
取材をさせていただいたときは、ちょうど母の日の出荷前のアジサイやベゴニアがハウス一面に咲いており、とっても綺麗な景色でした。
綺麗な花を育てるために、毎日、水をやり、温度を管理して、ひとつずつ丁寧に様子をみて、枯れた葉っぱは取っていく。そうして、1年かけて愛情たっぷり育てられた花はいきいきしていました。
中学生のころから花農家になると決められていた森さん。「地元に残って、花を作るってかっこいいなと思って。」と語られる姿がまっすぐで印象的でした。保育園に行かれているお子さんたちがハウスにきて、一緒にシールを貼る作業を手伝ったり、お花をみてきれいだねと話しているのが微笑ましく、こんな風にお父さんの働いている姿を近くで感じられるって素敵だな思いました。


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<お世話になった取材先>
森花園
森眞純さん
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<お世話になった取材先>
森花園森眞純さん
富士町生まれ。父が始めた花の仕事をみて、中学生の時に花農家になると決める。高校卒業後、愛知県へ3年間の修行へ行き、その後、地元へ戻り就農。ベゴニアやシクラメン、アジサイなど5種類の花を鉢植えで育てる。3年前から作りは始めたアジサイは、「アジサイ研究会」に所属し、仲間とともに佐賀県の品種づくりをしている。




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<取材記者>
鵜飼 優子
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
鵜飼 優子「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身、ひつじ年。今まで暮らしたことのある地域は、北軽井沢、阿武、萩、佐伯、そして個人的にもご縁を感じている佐賀のお山にやってきました。幼稚園教諭やドーナツ屋さんなど様々なことにチャレンジしています。将来は、こどもとお母さん、家族が集える場所を作ることが目標。佐賀のお山の暮らしを楽しみながら情報発信しています。

