自分が大好きだった自然環境を子どもたちに伝えたい No.026 NPO法人みんなの森プロジェクト 油布加菜美さん
- 2021.04.01
- written by 鵜飼 優子

小さいときの好きな遊びにどんぐりや木の実を拾ってままごとをしたり、お花を摘んで、木の実と一緒に工作でしてみたり……
そんな経験をしたことがあるひとは多いのではないでしょうか?
私も自身も近所の河川敷で花を摘んだり、角がまるいつるんとした石があったら拾って集めたり……。自然のものを使って、遊んでいました。
そんな子どものときのわくわくを体験できる場所があります。
富士町にある「21世紀県民の森 森林学習展示館 北山森クラブ」
「森に親しむ」「森を育てる」「森を活用する」の3つをテーマに、森林に触れ親しむイベントや、森の素材を活用したクラフト体験ができます。

クラフト体験では、木の実や木材、ドライフラワーなど100種類くらいある材料の中から自分で組み合わせて、写真たてやリースや自分で木の小さな家などの定番のものから、干支やこいのぼりなど季節に合わせたものまで、何でも作ることができます。
今回は、「北山森クラブ」森のデザインチームリーダーの油布加菜美さんにお話を伺いました。
クラフトの材料集めはまるで宝物探し

クラフト体験ができる「きのみいちば」材料の種類が多くて、わくわくしますね。
そうですね。お客さんも、「何を作ろうかな」と材料をみて想像が膨らむみたいでわくわくしながら選ばれています。
土台を決めて購入したら、材料費はその中に含まれているんですよね。
そうですね。まず、土台をの板や写真たて、ボードなどから選んでもらいます。
それから自分で木の実などの材料を自由にバイキング形式で取ってもらって、作っていきます。
材料の木の実などは、どうやって集められているのですか?
材料は、職員で集めに行っています。このあたりだけじゃなくて、唐津へ行ったり、佐賀県内さまざまな場所から集めています。その時期しか出会えない材料もあるので、出している材料もときどき変化しています。

佐賀県内のいろいろなところから集めてくるのですね。
最初は先輩に教わりながら集めに行っていました。木の実とかに詳しい方で、代々場所を引き継ぎでいて。「こんな場所にあるんだ」っていう木の実もあって、楽しかったです。
木の実だけじゃなくて、貝殻もあるので、唐津の島まで牡蠣がらを集めに行ったりしましたね。ドライフラワーにするためのお花は21世紀県民の森で育ています。
唐津まで牡蠣がら集めって、宝物探しみたいですね。初めからこんなにたくさん種類があったんですか?
いえいえ。私が勤めて1年目はクラフト体験ができる「きのみいちば」自体なくて、ここは会議室だったんです。
もともと構想としてあったものをどんどん広げていった形です。
今の材料を自分で自由に取るバイキング形式もお客さんの動きをみて、ヒントをもらいました。

もともと小さいスペースにがちゃがちゃで引いた木の実の動物キットを組み立てるくらいの体験スペースしかなくて、そこに紹介用として展示していた木の実や小さな種を気づいたらお客さんが飾りに使ってたんですね。
その姿をみて、なるほどと思いました。自由に材料を選んで作ってもらう形は、そこからスタートしました。
野イチゴやホタル、自然が導いてくれた働き方
お客さんの動きをみて、作り上げていったクラフト体験。油布さんは、木の実や植物にとても詳しく取材中も「これとってもめずらしくて、なかなか取れないんですけどこないだ久しぶりに見つけたものです」と見せてくれました。油布さんが森クラブで勤めるきっかけはなんだったのでしょうか?

そうですね。もともと自然で遊ぶのが大好きでした。佐賀県の大町(おおまち)町出身なんですけど、家の近くにため池があったり、家の裏は竹藪で、そこで探検したりしてました。
母親が四国のもっと山に住んでいたので、小さいときから自然のことを教えてもらってたんです。
家の近くでうろうろしてたら、野イチゴとかわらびがあって、「聞いてたのがほんとにあった」って自分で発見していくのが楽しくて。ホタルもきれいな川にいるイメージだったのが、田んぼのあぜにいるのを見つけたときはわくわくして、感動しました。
それが自然を好きになるきっかけだった気がします。

自然のなかでたくさん遊んで、自然にたくさん触れていたんですね。今のお仕事はどうやって見つけたんですか?
大学のとき入っていた環境教育のサークルの先輩が21世紀県民の森で働いていて、大学4年生の夏にアルバイトへ来ました。そのときに、「ちょうど1人募集してるよ」って声をかけていただき、そのまま就職することになりました。
環境教育のサークルがきっかけなんですね! 大学から環境に関わる活動をされていたんですか?
そうですね。高校生のころにどこの大学でどんなこと勉強しようって考えたときに、自然が好きだった幼少期のことを思い出して。
だったら、自然環境が学べる学校にいきたいって思って調べていたら、佐賀大学に文化教育学部の人間環境課程があって。そこに行こうって決めて勉強しました。
佐賀大学には「環境フォーラム」というイベントもあって、それも参加したいって思ってました。
大学に入ってみたら、なかなかマニアックな学科で、同じ学年に10人くらいしかいなくてびっくりしたんですけどね。
環境教育のサークルに入って、環境紙芝居を作って、佐賀市内の保育園とか幼稚園で読み聞かせにいってました。
どんな紙芝居だったんですか?
その時作ったのは、ホタルの話です。紙人形でホタルの「ほたろーくん」が主人公で、ホタルの成長には、「きれいな川や土が大切なんだよ」ということを子どもたちが親しみやすいようにお話していました。
話の最後にはサークルの先輩たちが育てていたホタルの幼虫を子どもたちに見せて。すごく反応よかったですね! ホタルの幼虫ってどんなのか知っていますか?
ホタルの幼虫はみたことないかもしれないです。淡く光って飛んでるイメージしかないです。
黒い毛虫みたいなのが、ホタルの幼虫なんです。幼虫を先輩方が育てていて、えさも川にとりにいって、大事に育ててました。
黒い毛虫見たいなのが幼虫なんですね! 子どもたちも興味津々でしょうね。
はじめは、毛虫みたいな見た目にきゃ~って言いながらも、恐る恐る触っていましたね。今の仕事でも、小学生や親子イベントのときに自然の話をするんですが、やっぱり実物(植物や昆虫)を持っていくと子どもたちの反応がよくて。
見て触れるって大事ですよね。わたし自身は、虫苦手なんで触れる油布さんがすごいです。
そうですかね。昔から虫とか生き物が好きで、おたまじゃくしとか毛虫とってきて、かごに入れて育ててました。おたまじゃくしから足が生えてきて、観察してるの楽しかったなぁ。
クラフト体験からイベント仕事の楽しい瞬間

お仕事は、クラフト体験だけでなくイベントもされているんですか?
そうですね。親子向けの森を楽しむイベントや、自然素材を使ったものづくり体験、森の婚活イベントなども企画しています。
勤めて2年目くらいのときに佐賀、福岡、長崎の森林ボランティア団体さんが集まる北部三県の森づくりイベントで200名規模のイベント企画、運営を担当しました。初めてのことが多くとても大変だった記憶があります。
いろんなイベントを企画されているんですね。200名規模はすごいですね。
北部三県のイベントは初めてで勝手も分からない中、企画を考えて、チラシを作って、名簿を取りまとめて……。事務作業が1番大変だったかもしれません。だけど、イベントで体験内容を色々と選べるようにしていたのが、参加者からも好評でした。
いろんなイベントを経験させてもらったことで、今はイベントの前日も、緊張よりも楽しもうって気持ちが強くなりました。

お仕事していて楽しい瞬間はありますか?
自分の企画したイベントがきっかけで、子どもたちが自然に興味を持ってくれたことを実感したときは嬉しかったですね。
前に親子向けのきのこの観察イベントをしたんですよ。そのイベントが終わった後、親御さんから、子どもがきのこに興味を持って、「オリジナルのきのこかるたをつくったんです!」って教えていただいたり、昆虫採集と標本をつくるイベントに参加してくださった子どもさんから夏休みの自由研究に提出して、表彰されましたっていうお手紙をもらったりして。
自分が企画したイベントが子どもたちの心に響いたみたいで嬉しかったです。この仕事をやっててよかったって思います。
お山とほどよい距離の働き方
高校生の時、進路を決める際、好きだった自然を思い出しその道に進むと決めた油布さん。環境のことを学びながら、環境教育のサークルで活動され、21世紀県民の森で働くことになりました。現在、佐賀市内から30分ほどかけて富士町まで通われています。
山で働くことについて聞いてみました。

車で30分くらいの距離は全然苦ではないです。
一時期、お山に住んでいた時期もありました。そのときは畑を借りて野菜を育てたりして、アパート暮らしではなかなかできない経験で楽しかったですね。
別の地域からお山に働きにくる不安とか無かったですか?
そうですね。あんまり無かったかもしれない。私が山で働くようになったときも、みなさんけっこうウェルカムに受け入れてくれて、飲み会やお祭りの会議なんかにも参加させてもらったりして。そのおかげで、山に住んでいる地域の方とつながりができたので、ありがたかったです。
歓迎ムードだったんですね。気候とか山と平野部で違いますが、場所の心配とかはなかったですか?
そうですね。気候は、このあたり雪が積もるんですけど、スタッドレスタイヤつけて、気をつけて運転すれば大丈夫だし、平地では見れない雪景色を見れるわくわくのほうが大きかったです!笑
街で働いていたら見れない景色が見れたり、色々な特技を持った地域の方や、職業の方に出会えるので、山で働けてよかったです。
山で自然にかかわりながら、働くっていいですね。もうすぐ赤ちゃんが生まれるので、産休に入られるんですよね。また環境が変わると思いますが、最後に今後油布さんのやりたいことなど教えてください。
そうなんです。5月に出産予定で、1年間産休でお休みして、それから復帰予定です。
今後は、まずは子どもと過ごすこと、子育てが一番になりますね。興味があることは、インターネットでの販売です。
今、森クラブでもキットを販売しているのですが、それをもう少し広げていけたらなと思っていて、木の実や枝などの素材や、家でも楽しめる森のクラフトキットなどを遠くに住んでいる人にもお届けして、自然に触れるきっかけを作れたらって思っています。
特に、自然に触れることが少ない都会に住んでいる方へ届けれたらなと思っています。自分たちにとっては、自然に触れる環境が当たり前でも、都会の方にとっては、魅力だと思うので。
お花が部屋に飾ってあると、ほっとしたり癒されたりするじゃないですか。それと一緒で、木や木の実とかに触れたり、飾ったりすることで暮らしの中に森や自然を感じる瞬間をつくっていけたらいいなと思っています。
ただ、キットや素材を売るだけじゃなくて、使われている木や木の実の新しい価値を見つけ出して売っていきたいなと思っています。
例えば、その木のいわれや特徴を紹介するなど、より興味が湧くような工夫をしていきたいです。

これは、「もっこく」っていう木で良縁のいわれがあるんですね。こちらは、なぎのしおり。ちぎれないから良縁。葉脈が縦に入っていて。どちらも森の婚活イベントで渡しました。
こんな風に新たな価値をのせて、木の実や木や葉っぱなどの自然環境に興味を持つきっかけを作りたいですね。
産休中にそのあたりもいろいろ考えられたらと思っています。

インターネットを通じて、遠くの方にも自然のおすそわけをするって素敵ですね。木のいわれなども良縁とか聞くと、別の形で自然に触れるきっかけになりそうですね。
本日はありがとうございました。元気な赤ちゃんを産んでください。油布さんにまたお会いできるの楽しみに待っています!
ー 編集後記 ー
「森の中は役に立たないものはないんだよ。昆虫や植物全部つながって生きている」というのを子どもたちに伝えています。と言われたのが印象的ではっとしました。
木の実ひとつとっても、遠くに飛んでいくために形を変えたり、飛ぶことを動物や風に任せたり、ほんと全部つながっているのだなと思いました。
取材中、カレンダーの飾りつけをされていて、ぱぱっと材料を選んで飾られるスピードに驚きました。「この実が好きなんですよ」と迷いなく飾っていき、あっという間に完成。自然を愛する油布さんだからこそ、自然を生かした作品ができていました。
自分の身近にある自然の世界の不思議を知りに、自然に触れに、ぜひ北山森クラブへ行ってみてください。
もうすぐ出産される油布さん。元気な赤ちゃんを産まれることをお祈りしています!!


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<お世話になった取材先>
21世紀県民の森 森林学習展示館 北山森クラブ
森のデザインチームリーダー 油布加菜美さん
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<お世話になった取材先>
21世紀県民の森 森林学習展示館 北山森クラブ森のデザインチームリーダー 油布加菜美さん
大町町出身。
幼少期の自然との関りで自然を好きになる。大学進学の際も「自然のことを勉強したい」と人間環境課程を選ぶ。環境教育のサークルへ入り、自分たちで紙芝居を作成し、子どもたちへ読み語りなどの活動をする。大学4年生の夏に、当時21世紀県民の森で働いていたサークルの先輩に誘われ、アルバイトをする。アルバイトをきっかけに北山森クラブで働くことになる。
イベントやクラフト体験の場所作りに携わり、今の形へ整えていった。
5月に出産予定のため産休に入る。




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<取材記者>
鵜飼 優子
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
鵜飼 優子「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身、ひつじ年。今まで暮らしたことのある地域は、北軽井沢、阿武、萩、佐伯、そして個人的にもご縁を感じている佐賀のお山にやってきました。幼稚園教諭やドーナツ屋さんなど様々なことにチャレンジしています。将来は、こどもとお母さん、家族が集える場所を作ることが目標。佐賀のお山の暮らしを楽しみながら情報発信しています。

