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「嬉野のお茶農家グループが広める新しいお茶文化」グリーンレタープロジェクトインタビュー

「嬉野のお茶農家グループが広める新しいお茶文化」グリーンレタープロジェクトインタビュー
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全国品評会で何度も賞を獲得している、お茶の名産地・嬉野。
しかし、「毎日急須でお茶を淹れる」「贈答品としてお茶を送る」という文化は、ライフスタイルの変化とともに薄れつつあり、この20年ほど市場は右肩下がり。そんな中で、うれしの茶の未来のために、お茶を贈る文化を新しい形で伝えたいと立ち上がったのが、嬉野の若手茶農家16名からなる『グリーンレタープロジェクト』です。
今回は、メンバー16名中15名が大集合!(「きたの茶園」の北野秀一さんはこの日は欠席)7年目に突入した活動の現在地や商品のこと、お茶づくりへの思いをメンバーへ詳しく伺いました。

グリーンレタープロジェクト
2019年に結成した嬉野の若手茶農家16名のグループ。お茶を贈る文化を新しい形で伝えるために、商品開発や販路拡大などさまざまな取り組みを行っている。2026年に佐賀県で実施される第80回全国お茶まつりの運営にも携わる。
https://www.instagram.com/greenlatter.tea

3つのポイントで知るうれしの茶

1.うまみをしっかりと感じるまろやかな味わい
お茶の味は産地ごとに特徴があります。うれしの茶はお茶のうまみや渋みをダイレクトに感じられます。また、お茶農家ごとに栽培方法や肥料が異なるので、それぞれの茶畑の個性がお茶にはっきりと表れるのも特徴です。

2.茶葉の形が丸い
若くてやわらかい葉をやさしく揉んで作ったお茶は、「玉緑茶(たまりょくちゃ)」または「ぐり茶」と呼ばれることもあります。玉緑茶には「釜炒り茶」と「蒸し製玉緑茶」の2種類があり、嬉野は「蒸し製玉緑茶」の代表的な産地です。

3.全国のお茶の品評会で最高賞を受賞
毎年行われる「全国茶品評会」において、「蒸し製玉緑茶の部」「釜炒り茶の部」で2023年から3年連続で農林水産大臣賞をダブル受賞。また、直近の10年間で「蒸し製玉緑茶の部」で6回、「釜炒り茶の部」で8回の産地賞も受賞している、日本トップレベルのお茶どころです。

8月の茶畑の様子。一面鮮やかな緑が広がる。

グリーンレタープロジェクトとは

「うれしの茶を未来につなげる」という目的で立ち上げたグループ。その方法の一つとして、「お世話になった方や大切な人にお茶を贈る文化」を自分たちらしい新しい形で提案。
メンバー16名それぞれの茶園のお茶とブレンド茶の合計20種類のお茶を販売しています。また、お茶を手紙のように郵送できるセットも開発。県内の店舗や旅館のほか、イベント、オンラインショップで販売しています。

メンバー16名それぞれの茶園のお茶とブレンド茶の一煎パック(1袋5g)。プロジェクトメンバーと仲間の子どもたちが描いた絵をパッケージにしている。
佐賀県出身のアーティスト・ミヤザキケンスケさんと開催したお絵描きイベント時、メンバーとその仲間の家族が勢ぞろい。家族みんなが関わっているのもグリーンレタープロジェクトの特徴。この時子どもたちが描いた絵が一煎パックのラベルになっている。
(写真提供:グリーンレタープロジェクト)
好きな味や絵柄のパッケージを3種類選んで郵送できるセット。
郵送セットに切手を貼ってポストに入れるだけでお茶を送ることができる。(写真提供:グリーンレタープロジェクト)

嬉野の人たちに支えられ、続けてきた販売活動

—グリーンレタープロジェクトは「お茶を贈ること」を通じて、人から人へとお茶を広げていく取り組みです。プロジェクトが始まったきっかけを教えてください。

三根孝之さん(三根孝一緑茶園):お茶は元々贈り物として重宝されていて、高級なお茶を送ったら箔が付くといった考えが根付いていたんですね。でも、だんだんとお茶を飲む人たちが減っていって、お茶を送っても「急須がない、淹れ方もわからない」と敬遠されるようになりました。 僕たちは、一人でも多くの人にお茶を飲んでもらうためにも「お茶を贈る文化を残したい」と思って、旅先から手紙を送るように、手軽にお茶を送ることのできるグリーンレターを考えました。 嬉野は観光地と茶畑が近いというすごく恵まれた環境にあるからですね。  自分たちお茶農家にとっては「このお茶がおいしかったから人に贈ろう」と人から人へ広がっていくのが一番良いPR方法だと思っています。

グリーンレタープロジェクトのリーダー・三根孝之さん。

最近は、お茶の淹れ方が分からない方もいるのでパックの裏には一番おいしく淹れられるお湯の量と温度、時間をそれぞれのメンバーに書いてもらっています。最初のハードルをどれだけ低くできるかも大事です。

お茶の味やおすすめの淹れ方を記載した一煎パックの裏側。お茶を淹れることに慣れていない人にも優しい仕様。


—2019年から始まったグリーンレタープロジェクトも今年で7年目。最近の販路や反響について教えてください。

北野竜徳さん(米・茶・野きたの):嬉野市内の5軒の旅館さんに商品を置いていただいています。5gの茶葉を個包装した一煎パックが手に取りやすいこともあり、結構売れていますね。
嬉野を訪れる方にうれしの茶を知っていただく場になっていると思います。

田中拓也さん(田中緑茶園):九州佐賀国際空港内のショップ・sagair(サガエアー)でも一煎パックは毎月150〜200個売れていますね。ティーバッグタイプも人気です。購入者から「おみやげであげたら喜ばれたから、今度は結婚式でゲストに配りたい」というコメントとともにネット注文をいただくこともあります。退職のお礼などで配る方もいらっしゃるようです。
佐賀の玄関口である空港で買っていただいているので、自分たちのお茶が県外にも広まっているのかなと感じています。

ティーバッグタイプは蒸し製玉緑茶、釜炒り茶、紅茶、ほうじ茶の4種類を展開

古賀和也さん(松尾製茶工場):市内の旅館に納品する時にスタッフさんたちとお話しして、どんな商品が売れているか、どんなアクションがあったのかを聞いています。やっぱりイラストがかわいいと売れやすいんだな、とか。年末年始に販売した干支のイラストパッケージは3日ぐらいで売り切れました。「お正月に旅館でもらって素敵だったから、自分の会社のお年始として配りたい」とお客様から注文をいただいたこともあります。
同じ場所で継続して販売しているから分かることですし、地域の方々にご協力いただいているのはありがたいです。

左から、古賀和也さん、田中拓也さん、北野竜徳さん。

—これまで活動してきて課題に感じることはありますか。特に、生産と販路開拓の両立は難しいイメージがあります。

田中将也さん(嬉野茶生産農家たなか園):おいしいお茶を作るためには、普段の畑の管理が大切です。最近は、昔と気候が変わってきて、雨が降らなかったり、降ったと思えば大雨だったりと、管理が昔よりも大変になっています。
お茶を全国に広めていくには販路を開拓する時間も必要ですが、畑の管理との両立は簡単ではありません。
でも、現状のままお茶作りを続けても勝手に販路が広がるわけではないので、頑張らないといけないですね。お茶農家である自分たちだけでは乗り越えることが難しいですが、グリーンレタープロジェクトの立ち上げにも力を貸してくれたコーディネーターの高尾さんが、いろんなつながりを生んでくれてとても助けられています。

※…高尾さんはプロジェクト立ち上げ時からグリーンレタープロジェクトの活動を力強くサポートしているコーディネーター。表に出ることは少ないが、プロジェクトに欠かせない存在。

プロジェクト立ち上げ時から活動を力強くサポートしているコーディネーターの高尾道子さん。

田中宏さん(田中製茶工場):一番大事なのは、おいしいお茶を作ることなのでそこは疎かにできません。販路の拡大は難しいですが、現在は温泉旅館など地域の他の産業と連携できています。嬉野の土地の強みを活かせているし、いろんな人とのつながりもできて良かったです。

中嶌正将さん(中嶌茶園):忙しい時期の納品はみんなで協力して乗り越えたり、旅館には各自でお願いしに行ったり、逆に声をかけていただいたり。そういうふうに都度クリアしている状況です。 販売の技術は元々持っていないメンバーがほとんどなので、売り方を覚えるのは大変だとこの活動を通して思っています。でも、お茶屋さん(製茶問屋)がサポートしてくれるなど、嬉野の人たちから応援されているのは感じますね。

—それぞれの茶園のお茶の加工や販売もありながら、グリーンレタープロジェクトでも販売していくのは大変ではありませんでしたか?

武藤伸弥さん(武藤製茶園):自分の茶園とプロジェクトではさばく量が全然違うのでそこは問題なかったです。それぞれの茶園でも、自分でお茶を売りにいく人と、お茶屋さん(製茶問屋)にお任せする人がいます。
それぞれの茶園では利益を上げることは大切ですが、グリーンレタープロジェクトでは「うれしの茶を知ってもらい、手に取ってもらう」ことに軸足を置いています。

田中宏さん(田中製茶工場):生産者の顔が見えるのもグリーンレタープロジェクトの良いところですよね。それぞれの茶園で栽培方法や育てている品種が違うことが分かりやすくなったんじゃないかなと。嬉野ではほとんどの茶農家が自前の加工場を持っています。だから、コーヒーでいうところの「シングルオリジンのお茶」が作れるんです。プロジェクトで16種類(+ブレンド4種)のお茶を販売できているのは、そういう特徴が活きていると思います。

左から、田中宏さん、武藤伸弥さん、中嶌正将さん、田中将也さん。

個性派ぞろいのグループをまとめるのはメンバー愛!?

—6年間、プロジェクト当初から一人も欠けることなく活動を続けてこられました。関係性を保ち続けるコツはありますか


永尾俊介さん(永尾製茶工場):一番はグリーンレタープロジェクトの代表である三根孝之さんのカリスマ性だと思います。

一同:爆笑

永尾俊介さん(永尾製茶工場):三根くんが何をするにもしっかり段取りをしてくれるから、僕たちはスムーズに活動できています。もちろん喧嘩とかもなくてですね。
何より、一人ひとりが「自分の作ったおいしいお茶を飲んでもらいたい」という思いを持っているから全員で活動を続けられています。

全員に集合がかかるのは久しぶりだったとのことで、取材前後も誰ともなく会話が始まり、笑いの絶えない時間となった。

峰伸一さん(峰製茶園):一緒におって楽しいからかなと思います。それが一番かなって。最年少が27歳で最年長が今年で46歳と年齢はバラバラなんですけど、3〜4人で別のことで集まったり、顔を合わせたりすることはしょっちゅうなので関係性は深まっていきますね。

松永浩二さん(松永緑茶園):グリーンレタープロジェクトがあるからこうやって若いメンバーも含めて大勢で集まっていると思います。他の産品を作っている農家ではこうやって若手が集まることってあまりないんじゃないかな。
みんな農家で生まれ育って、今は自分がお茶農家として働いていて、「お茶を残したい」「うれしの茶を知ってもらいたい」という思いがあって、グループでもそれを共有できている。うれしの茶を日本全国へ、そして世界へ広げていく。そんなゴールを目指せるメンバーが集まっていると思います。

左から、峰伸一さん、永尾俊介さん、松永浩二さん

—「三根さんのカリスマ性がすばらしい」とのことですが、三根さんはどうやってグリーンレタープロジェクトのメンバーをまとめていますか。

三根孝之さん(三根孝一緑茶園):次の世代にお茶を残していくために個人でできることには限界がある。だから団体でしかできないことをやろうと話して集まってくれたメンバーなので、最初から方向性は合致していました。
話し合いをしたい、取材に協力してほしいと言ったらこうして集まって、自分の言葉で話してくれるメンバーたちなので一緒にやれて良かったです。
また、「若手お茶農家の16人グループ」という肩書きができたことで、メディアに注目されやすくなったと感じています。東京のラジオに出演したこともありました。うれしの茶がメディアに出ることで、うれしの茶を飲む人や嬉野に遊びにきてくれる人が一人でも増えたら活動している意味があると思います。

取材中に淹れていただいたうれしの茶。とてもおいしかったです!

次の世代もお茶作りができるようにうれしの茶の魅力を伝え続ける

—2025年3月には、グリーンレタープロジェクトメンバー16名の茶畑が、環境省から生物多様性の保全に貢献している「自然共生サイト」に認定されました。茶園では全国初の認定です。どのような取り組みが認定につながったと思いますか。

三根さん(三根孝一緑茶園):茶畑を管理することで、茶畑を利用して生息している生き物を守ることができます。また、お茶の花は冬に咲くのでミツバチの蜜源となる希少な植物です。自然と調和しながらお茶を作るのは、先祖代々やってきたことで今も自分たちにとって当たり前のこと。それが認定につながって嬉しかったです。
以前から「企業のオフィスに置いてあるコーヒーの横に、おいしいお茶もあったらいいのにね」とグループ内でも話していたんですが、提案がなかなか難しいと感じていました。認定を受けたことで、企業にとって、私たちの活動に連携、協力することが自然環境活動の一環になることを知りました。今後、僕たちの強みになったらいいなと思っています。

お茶農家にとっては生業であるお茶を栽培するための茶畑が、生き物たちにとっては命をつないでいく場所になる。

2026年には第80回全国お茶まつりが佐賀で行われ、グリーンレタープロジェクトの皆さんも運営に関わられています。開催に向けて取り組んでいることや意気込みを教えてください。

田中勝也さん(田中製茶園):佐賀県内でお茶まつりが行われるのは1999年以来27年ぶりで、本当に貴重な機会です。これを機に佐賀のお茶を全国の人に知ってもらいたいです。

お茶まつりポロシャツ。オモテにはお茶娘のイラストが描かれている。取材時、着用していたメンバーも多かった。

永尾保彰さん(永尾製茶園):お茶まつりは、全国から出品されたお茶の審査会や授賞式審査、技術競技会、全国の出品者との懇親会など生産者向けのプログラムと、試飲会など消費者向けのプログラムがあり、とても充実したイベントになっています。
自分たちが現役農家として関われるのはこれが最後、ぐらいの気持ちで県や市と一緒になって一生懸命盛り上げていきたいです。

永尾耕大さん(永尾緑茶園):お茶まつりでは「全国茶生産青年茶審査技術競技会」という、味や見た目でお茶の産地を当てる競技が行われます。一昨年は団体部門優勝、個人部門が準優勝でしたが、昨年は入賞できていません。今年の全国奈良大会で優勝を奪還したいです。
また、来年は佐賀県で開催なので団体戦での優勝を目指したいと思っています。ちなみに、一昨年、団体戦優勝した時のメンバー5人は全員グリーンレタープロジェクトのメンバーで、準優勝したのは僕です(笑)。

左から永尾保彰さん、田中勝也さん、永尾耕大さん。

—これまでのグリーンレタープロジェクトの歩みの総括、これからの展望を教えてください。

白川天翔さん(白川製茶園):先輩たちがいろんな人と連携をとったり、販路を作ってくれたりしたから、ここまで活動を続けてこられたと思います。活動自体はもちろん、農家がグループを組んでいることにも注目してもらいたいです。これまで、一煎パックやレターセットなどの新しい形でお茶を届けてきました。これからまた新しい形を作っていけたらおもしろいのかなと思います。

最年少メンバーの白川天翔さん

三根さん(三根孝一緑茶園):結成してから一人も欠けることなく6年間活動を続けてこられたことが一番良かったと思います。
グリーンレタープロジェクトは、うれしの茶を未来につないでいくことを目的に、できることを見つけて実践していく団体です。
一つひとつは小さな活動かもしれませんが、これからも僕たちらしくみんなで力を合わせて、長く続けていきたいです。

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