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「KASE_ANNEよく行くよ、と地域から愛される老舗を目指す」由井聖来さんインタビュー

「KASE_ANNEよく行くよ、と地域から愛される老舗を目指す」由井聖来さんインタビュー
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レトロな雰囲気の店内とやさしい味の料理、キュートな見た目のスイーツ… 平日もオープン前から人が並び、土日は県外からも多くのお客さんが訪れる。そんな魅力あふれるカフェが2024年3月に佐賀市嘉瀬町にオープンした「KASE_ANNE」(かせあん)です。店長を務めるのは由井聖来さん。自然と周りに人が集まってくる愛らしい性格と料理やスイーツ、インテリアの方面で発揮される抜群のセンスが魅力的な20代のUターン組です。
「地域の人がふらっと訪れる寄合所のようなカフェ」を目指す由井さんと、彼女を店長としてスカウトしたオーナーの荒木美智子さんにお店の歩みやこだわりをたくさん伺いました。

由井 聖来(ゆい せいら)さん
「KASE_ANNE」(かせあん)店長
小城市出身・在住。高校卒業後、福岡市内のカフェで働いていた頃に「KASE-ANNE」の店長としてスカウトされ、Uターン。「KASE-ANNE」の店舗立ち上げから関わり、料理やスイーツのメニュー開発、調理、コーヒー豆の焙煎、インテリアコーディネートなど店舗の運営全般を担う。趣味はリサイクルショップ巡り。
https://www.instagram.com/kase__anne/

親子ほど年の離れた二人が佐賀愛で意気投合!

—「KASE-ANNE」のある場所は、隣の理美容室「ニュー東京エクセレントヘアー」の住居スペースだったそうですね。どういう経緯でカフェになったのでしょうか。

由井さん:理美容室「ニュー東京エクセレントヘアー」(以降 ニュー東京)は70年近く前にオーナーの荒木さんのお父様が開いたお店です。私は小城市出身で、ニュー東京のある国道207号線は高校通学時に自転車で走っていた道。荒木さんからカフェの店長をやりませんか、とお誘いいただいた時も「ああ!あの場所ね」とすぐ思い浮かんだぐらい、この辺の人たちにとってはなじみのあるお店だと思います。

国道207号線沿いに建つ理美容室「ニュー東京エクセレントヘアー」。左奥の2階建ての建物がKASE-ANNE。
KASE-ANNE外観

荒木さん:住居スペースでは父が暮らしていたのですが、亡くなった後も人の集まる場所として残していきたくてカフェにすることを決めました。
同時にこの場所で若い人の夢を応援したかったので、「カフェをやりたい若い人はいませんか?」とお客さんたちに聞いていたんですね。そこで紹介してもらったのが由井さんでした。会って話してみたら、ものすごく前向きで明るい。人から好かれる子なんですよね。料理やスイーツに自分の個性をひとひねり加えるセンスもすばらしい!ぜひ店長に、とスカウトしました。

由井聖来さん

—当時、由井さんは福岡市内のカフェで働いていましたよね。20代前半で店長になることに迷いはありませんでしたか?

由井さん:多分とても怖いもの知らずというか…(笑)あんまり深く考えない性格だから「やってみるか」と。こんな大きいチャンスが次にいつ来るかわからないというのもありました。

KASE-ANNE店内。居間の小上がりやレコード盤が入っていた押し入れなど、民家のつくりをそのまま生かしつつ、カジュアルな雰囲気にリノベーションした。

由井さん:なにより佐賀が大好きなんです。福岡で働いていた頃も、佐賀に戻って佐賀を盛り上げる仕事をしたいとずっと思っていたので迷いはほぼありませんでした。

鏡や照明、壁掛け時計など前の民家から引き継いだ家具も多い。この場所で紡がれてきた歴史のぬくもりが訪れる人をほっとさせてくれる。

—元々カフェは好きだったんですか?

由井さん:高校卒業後、はじめは県内の旅館で働いていたんですよ。そこにいた仲居さんたちの話がめちゃくちゃおもしろかったんですね。バブル時代を謳歌していた人もいて、とにかく人生経験が豊か。私もこうなりたいな、と思いました。まずは夢を決めようと思った時に浮かんだのが、“大阪の喫茶店”でした。親せきが大阪に住んでいたので時々通っていて、「絶対に落ち着ける場所」として記憶に残っていたんです。
「よし、じゃあ喫茶店やろう!」と決めて1ヶ月後ぐらいにはもう福岡のカフェで働いていました。

KASE-ANNEの人気メニュー「ローストビーフカレー」「クレームブリュレ」「サテンのフロート」。メニューの開発も由井さんが中心となって行っている。

—行動力がすさまじいですね…!お話を伺っていると、由井さんのセンスがKASE-ANNEで爆発しているのは荒木さんが見守ってくれている環境も大きいのかなと感じます。

荒木さん:若い人たちの「◯◯をやりたい!」という気持ちや発想は本当にすてきです。でも行動しようと思っても金銭面で難しかったり、ときには体調を崩してしまったり。そういう話をよく聞いてもったいないなと感じていました。由井さんにはのびのびやってほしいんです。それが才能を伸ばす一番の方法だと思います。私の役割はその下でちょっと支えることです。

—お二人とも「佐賀を盛り上げたい」とおっしゃっていますね。お店のコンセプトの一つとして「地産地消」を掲げています。

荒木さん:お米は嘉瀬町の杉町農園から精米したてのものを届けていただいています。そのほか、コーヒー豆はいずみや珈琲、トーストのパンはベーカリーエムズから仕入れています。そのほか、佐賀県産の牛肉や白石町の玉ねぎドレッシングなど、食材はできるだけ佐賀の生産者や業者から仕入れています。
また、お皿やコーヒーカップには有田焼、波佐見焼を使っています。なるべく佐賀の中で生産と消費を循環させていけたらという思いです。

KASE-ANNEのコーヒーは仕入れた生豆を店内で焙煎して提供する。焙煎も由井さんが担当。

由井さん:私もそうだったのですが、佐賀に住んでいても佐賀の名産品を食べることは意外と少ないのかもしれません。でも食べたらおいしいものばかり。料理の見た目と味の両方でときめいてほしいです。

「ローストビーフカレー」には自家製の佐賀県産の牛肉のローストビーフ、グリルしたれんこん、佐賀県産のノリで作ったつくだ煮など佐賀の食の魅力を詰め込んだ。

やりたいことを“ぽっぽっぽっ”と口に出すのが実現のコツ

—準備期間を経て2024年3月にオープン。2025年8月時点のSNSのフォロワーは5,000人を超え、投稿からも盛況ぶりが伺えます。どのような反響を感じていますか。

由井さん:毎日、県外も含めてさまざまなところからお客さんが来てくれます。一人で来る方もいればご夫婦やご友人、ファミリーで来られる方もいます。
「これまでにないような雰囲気のお店だね」「ふらっと寄りやすい」と言ってもらえるのは嬉しいです。

初めて訪れた人も実家のような居心地の良さを感じられる店内。

荒木さん:理美容室が隣にあるのでヘアカラー中のお客様がラップを頭に巻いたままコーヒーを飲んで待たれたり、ご飯を食べたり。こちらから理美容室にコーヒーを持っていくこともあります。

KASE-ANNEのテーブルには料理やスイーツのメニューと理美容室「ニュー東京エクセレントヘアー」のメニューの両方が置いてある。

由井さん:嘉瀬町といえば“バルーンフェスタ”(注1)なので、お店のロゴはバルーンをモチーフにしました。そのおかげか佐賀のプロバスケットボールチーム「佐賀バルーナーズ」の選手が何人も来てくださるようになりました。サイン色紙やグッズを飾っていることもあり、ファンの方たちの中でも「KASE-ANNEはバルーナーズファンの聖地」と呼ばれているようです。
注1…佐賀インターナショナルバルーンフェスタ。毎年10月下旬〜11月上旬にかけて嘉瀬川河川敷で開催されるアジア最大級の国際熱気球大会。国内外から多くの見物客が訪れる。

KASE-ANNEロゴ

—ニュー東京のお客さんやバルーナーズの選手やサポーターが来店するのは、地域ならではと感じます。古民家を改装しているからか店内にいるととても落ち着きます。

由井さん:ずっと座っていられるような居心地の良さを感じてほしいと思っているので、空間にはとてもこだわりました。
内装は、玄関のすりガラスをカウンターとテーブル席の仕切りに転用したり、元々あった鏡や照明はそのまま使ったりと、元の家の雰囲気を生かしています。

店内に飾られているレコード盤は荒木さんのお父様が収集していたもの。

店内に飾っているレコードも元からあったものです。私自身もレコードが好きで、お客さんとも音楽の話をすることが多いんですけど、ときにはカウンターで隣になった10代と60代のお客さんがレコードの話をしていることもあります。とっても盛り上がるし、お客さん同士で会話が生まれることにワクワクします。そういう空気感は大事にしていきたいですね。

気になるレコードはレコードプレーヤーでの再生をリクエストできる。

—由井さんはメニューの開発や調理、内装のこと、接客、スタッフとのコミュニケーション…とやることがたくさんあると思います。やりたいことを実現しつづけるコツはありますか?

由井さん:これを作りたい、あれをしたい、と思ったことはぽっぽっぽっと口に出すようにしています。自分が忘れないようにやっているのですが、気づいたら周りのスタッフやバイトの子たちが率先してやってくれていることがあります。積極的に店を盛り上げようという方ばかりで頭が上がりません。本当に人に恵まれているなと思います。

—すばらしいですね。行き詰まったり迷ったりした時はどうしていますか?

由井さん:ほんとに能天気な性格なので「なんとかなるか」みたいな。あとはやはり周りのみなさんに助けていただいています。料理が上手なスタッフさんはオーナーと年が近いこともあって、落ち着きと貫禄があるからお店に関係のない人生相談も聞いてもらっています。

KASE-ANNEのInstagramを見て「働きたい」と長崎から移住してきたパティシエ経験のある子は情報収集が得意。私が煮詰まった時は「こういうやり方もありますよ」と教えてくれたり、「私も考えてみます」と言ってくれたりするんです。それだけで気持ちが楽になるし、楽しいなって。大学生のバイトの子たちにもたくさん支えてもらっています。

厨房の様子。奥が由井さん。

お店の駐車場も満車になることが増えて困っていたら、近くのデザイン事務所さんが「数台ならうちに停めていいよ」って貸してくださったんです。食材を提供いただいている生産者さんも含め、地域のみなさんに助けられながらお店を続けていけることに温かい気持ちになります。

クラシックな雰囲気の2階。大きな梁や床の間、小物などは古民家の時から変わらない。コワーキングスペースとしても利用可能。

とりあえずKASE-ANNE行く?と佐賀のみんなに思ってもらいたい

—佐賀市内の人気店という地位を確立しつつありますが、どのようなお店を目指していますか?

由井さん:開店当時から「佐賀の人がちょっと落ち着ける場所」として地域に根付くことを目指しています。KASE-ANNEの周りは和菓子屋さんやニュー東京など老舗がたくさんあります。やはり、名前を聞いた時に誰もが知っている、行ったことがある老舗は理想です。年月をかけて本当の老舗の風格をまとっていきたいですね。

—今後の展望を教えてください。

由井さん:今年の秋から佐賀バルーナーズの試合会場での出店が決まりました。KASE-ANNEのことをいろんな方に知っていただく機会になりますので楽しみです。
店舗にも気楽に遊びに来ていただけたらと思います。「どっか行きたいけど決まってないけん、とりあえずKASE-ANNEで会議しよう?」みたいになってくれたら嬉しいですね。私はほぼ毎日お店にいるのでいつでも遊びに来てください。

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