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「誰かと一緒に食べる (●’◡’●)だごどーなつを届けたい」小野奈津美さんインタビュー

「誰かと一緒に食べる (●’◡’●)だごどーなつを届けたい」小野奈津美さんインタビュー
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神埼市で体と心にやさしいおやつ工房「なつの実」を営む小野奈津美さん。きび砂糖、米粉、無調製豆乳などシンプルな材料で作られる「なつの実」のおやつは予約が絶えず、イベントに出店すればあっという間に売り切れてしまう人気ぶり。
自身の子どもの障がいをきっかけに始めたおやつ作りを仕事にするまでの歩み、B型作業所や子ども食堂のサポートといった地域とのつながり、自身のルーツである鹿児島県与論島への思いなど、さまざまなトピックを小野さんに伺いました。

小野奈津美さん
「なつの実」代表
神埼市で4人の子どもを育てるかたわら独学でおやつ作りを始め、2017年に「なつの実」をオープン。手作りのおやつやお客様のアレルギーや体質に寄り添うオーダーメイドのケーキを製造、販売している。子ども食堂「みんなの食堂」のサポートやイベント出店なども精力的に行なっている。
https://www.instagram.com/natunomi__/

シンプルでやさしい「なつの実」のおやつ

インタビューの前に「なつの実」のおやつを紹介!

人気No.1おやつ「だごどーなつ」

しっとりふわっとした食感とやさしい甘味がくせになるだごどーなつ。材料はたったの5つ!1.鹿児島県与論島(よろんじま)のきびざら(きび砂糖)、2.平飼いでのびのびと育てられた鶏が生んだ本間農園の卵、3. 筑後産小麦粉、4.無調整豆乳、5.塩。これらを混ぜ合わせた生地を米油で揚げることで油っこくない軽い仕上がりになっています。
フレーバーは、プレーンのほか、きな粉、エスプレッソ、黒ごま、よもぎなど種類が豊富。(季節やイベントによって変更あり)

固さにこだわった「ビスコッティ」

提供:小野奈津美さん

イタリアの伝統的な焼き菓子で、二度焼きすることで固い食感が生まれるビスコッティ。「なつの実」のビスコッティは固いのが好きな小野さんが噛みごたえを追究したレシピで作っています。プレーン、抹茶などこちらも複数のフレーバーあり。

オーダーメイドのケーキ

提供:小野奈津美さん

食べる方のアレルギーや食べ物の好き嫌いに合わせて作るケーキ。毎回、オーダーに合わせてレシピの開発から始めるそう。お誕生日や結婚式、母の日、クリスマスなどの注文が多いので予約はお早めに。
そのほか、米粉のチーズケーキ、ゼリー、シフォンケーキなど、バリエーション豊かなおやつを作っています。

子どもの障がいをきっかけに始めたおやつ作り

—小野さんは学校などで製菓を学んだ経験はないそうですね。おやつ作りを始めたきっかけを教えてください。

15年ほど前、長男が年長の時に自閉症と発達障害の診断を受けたんですね。今、子どもが4人いるんですけど、上の3人は年齢が近いし、手がかかる時期だったので、あの頃は毎日必死でした。当時は今のように自分で得られる情報も十分ではなかったですし、私は福岡県大牟田市で生まれ育った後、結婚を機に神埼市へ来たので周りに友だちもいなくて、当時はかなり悩みましたね。
そんな時に知り合いから「発達障害の子は口にするものによって症状がやわらぐことがあるみたい。日常的にお菓子を食べるなら材料を変えてみたら」とアドバイスをもらったんです。

だごどーなつを揚げているところ。きれいな真ん丸のドーナツを低温でじっくり揚げる。

そこで思い出したのが、鹿児島県与論島(よろんじま)(※2)のさとうきびで作った砂糖「きびざら」でした。母方の祖父母はおよそ130年前に与論島から大牟田の炭鉱へ移住してきた人たち。(※3)
私が子どもの頃は、おばあちゃんが作った「きびざら」を使ったドーナツやよもぎ蒸パン、黒糖蒸しパンをおやつとして食べていました。子どもたちにああいうおやつを作ってあげたらいいのかなと。それから、ナチュラルフードコーディネーターの資格をとって、だごどーなつのレシピ開発を始めました。
※2…鹿児島県最南端の島。さとうきびの名産地の一つ。
※3…1900年代初頭、数百人単位の島民が与論島から大牟田の炭鉱へ移住した。島民出身者やその子孫で構成されたグループ「大牟田・荒尾地区与論会」は現在でも与論島との交流を行なっている。

小野さんがおやつ作りに使っている与論島のきびざら

—はじめは自分のお子さんのためのおやつ作りだったんですね。そこからどうやってお店を持つに至ったんでしょうか。

子どもの発達障害について悩んでいたのをきっかけに、同じ悩みを持つママたちと自助グループを作ったんです。
みんなで家に集まって、話して、食べて、笑って、泣いて、子どもたち同士もわちゃわちゃと交流して… そんなことを数年やっていたら「小野さんの作るごはんもおやつもおいしいから、お店開いたら?」とママ友たちから言ってもらえるようになりました。

取材中の一コマ。「なつの実」の厨房兼販売所であるトレーラーハウスにて。

いつかは自分のお店を持ちたいなとは漠然と思っていたんです。一番上の子だけでなく、他の子も発達障害があってサポートが必要だから外に出て働くのは難しかったので、なるべく子どもたちと一緒にいる時間を持てる仕事がいいという事情もありました。
でも、場所を探すのが大変でなかなか話が進まず…9年ほど前に、いま「なつの実」が入っているトレーラーハウスが見つかって、そこから一気に物事が動きましたね。自宅の隣の土地にトレーラーハウスを入れて開店しました。

—「なつの実」のInstagramにはさまざまなおやつやオーダーメイドのホールケーキの写真が載っていますね。どのような需要や反響を感じていますか。

アレルギーなどの理由で小麦の摂取を控えたい方から「米粉で作られたお菓子を食べたい」という相談は結構いただきます。
それから、発達障害の子どもたちは食べられるものと食べられないものを視覚的に判断することがあるので偏食の子が多いです。そういう子たちも楽しく食べられるようにケーキはオーダーメイドにしています。

だごどーなつを切って揚げた「どーなつラスク」。手が止まらなくなるさくさく食感。

ほかにも、結婚式に合わせたおやつを作ってほしい、といった依頼もありますね。そういうときは、その式のためだけにレシピを作ることもあります。できるだけ一人ひとりに寄り添ったおやつを作りたいという思いがあります。

周りに助けられた過去を経て今は「社会にお返しする」ターン

—お子さんたちがいたからこそ「なつの実」が生まれたんですね。

4人いる子どもの誰か一人でも欠けていたら今はないなと思うぐらい、子どもたちには日々学ばせてもらっています。
子どもたちは発達障害があったり、不登校の時期があったりと、生きづらそうな時間もたくさんあったけど、母親の私は気付かされたことが本当にたくさんありました。子どもたちと、これまでの人生での人との関わりが活動の原動力ですね。
若い頃に身内が早逝(そうせい)したこともあり、今ある時間、命をどんなふうに大事に使っていくかということは毎日考えています。生きていると、何があるかわかりませんからね。

—数年前は、B型作業所の利用者の方と一緒にお菓子を作って販売する活動もされていたそうですね。どのようなきっかけでお引き受けされたのでしょうか?

長男がお世話になっていたデイサービスの所長さんから「おやつ作りをしたいと言っている子がいます」と連絡をいただいたのがきっかけです。
2年ほど毎週一回「なつの実」に来てもらって、一緒にクッキーの型抜きやシール貼り、ラッピングなどをやりました。すごく身長が高くて、手も大きいんですけど繊細な作業が得意な子でしたね。

「なつの実」のロゴシール。暖かい雰囲気は小野さんのおやつ作りの姿勢にも重なる。

長男がデイサービスにお世話になっていた頃は、神埼にデイサービスや作業所といった福祉施設はほとんどなくて、生活の上でも精神的にもよりどころになっていました。たくさんお世話になってきたので、今度は自分がなにかサポートできればと思ってお引き受けしました。
それから、子育てを経験する中で子どもはいろんな大人と関わって学ぶ機会があったほうがいいなと思っていたので、その子にとっての「いろんな大人の一人」になれたらと。

—すてきな出会いですね。現在は、子ども食堂のサポートをされているそうですね。

B型作業所の母体団体が月に1度吉野ヶ里町で「みんなの食堂」という名で開いている食堂で調理を担当しています。その月によって、子どもたちに食べてもらったり、地域の高齢の方にお配りしたり。一回の参加者はだいたい100人ぐらいですね。私は厨房でいつも汗をかきながら大鍋をかき回しています。

子ども食堂で調理している一コマ。提供:小野奈津美さん

—ご家庭やなつの実の活動もある中でなぜ精力的に活動できていると思いますか?

私自身がちょっと複雑な家庭に育ったこともあり、周りの大人たちに支えてもらいながら子ども時代を過ごしました。
小学生の頃、隣の家のおじいちゃんとおばあちゃんがお好み焼きとラーメンのお店を経営していて、「ランドセル置いたらうちにおいで」と鍵っ子だった私を毎日お店に招いてくれたんですね。お好み焼きの仕上げのソースをかけるお手伝いをさせてもらったり、お客さんと話をしたりするのも好きで。そういう経験が根っこにあって、今は自分がなんらかの形で社会に返していく番が来たんだと思っています。単純に、誰かが自分の作ったもので笑顔になってくれたら嬉しいんです。

夢は変わる。だからこそ持ち続けることが大事

—「なつの実」の活動でも、個人的なことでも今後叶えたいことはありますか?

与論島に行くことですね。私にとっては特別な場所、日常と少しかけ離れた生活をするところ、という感覚があります。あそこに行くために佐賀でがんばれる。与論島の景色を見るたびに自分の子や障害のある子、いろんな家庭環境の子を引率して連れて行きたいなと思います。いずれは民宿を開きたいですね。

与論島の景色。提供:小野奈津美さん

—「なつの実」として与論島のイベントに出展されたそうですね。

与論島の「きびざら」を使っているいろんな事業者さんが集まるイベントに2回ほど出展しました。ほとんどは奄美地方からの出展ですが、観光課の方が声をかけてくださって。佐賀から参加しているのは私ぐらいですね。

与論島での出店の様子。提供:小野奈津美さん

与論島に行くとみんな親戚みたいな感覚になるんです。飲食店でごはんを食べていると、隣のおばちゃんに「あんたどっから来た?」と聞かれて、「◯◯の孫です」といったら、「あら、うち親戚よ」って。身内でなくても「おかえりなさい」と迎えてくれる。その雰囲気が暖かくて大好きです。

—最近、印象深かったことはありますか?

神埼市内の中学校から声をかけていただいて将来の夢についての講話をしました。パティシエなど製菓の王道ルートを歩まずにおやつ作りをしているからそれがおもしろいと思ってもらえたのかな?
講話では、にんじん味のだごどーなつを子どもたちに食べてもらいながら「夢は変わっていくからこそ、いくつになっても夢を持っていてほしい」という話をしました。

私は高校生の頃まで美容師になりたかったんですよ。でも、美容学校には行かずに、飲食店を転々としながら働いて、結婚して神埼に来て、子どもの障がいをきっかけにおやつ作りを始めました。いつでも人生の道は変えられるし、いろんな出来事を経て夢が変わるのはまったく悪いことではない。だからこそ、その時々の夢に一生懸命向き合うことが大事だと思います。私自身の活動でそういうことが伝わっていれば嬉しいです。

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